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IR認定

さて、先週政府はカジノを含む統合型リゾート(IR)誘致に関するIR推進本部で大阪府と大阪市の整備計画を認定すると決定している。統一地方選の結果を受けてのタイミングという感だが、これが実現するとなると日本では初めてのカジノ併設施設となるわけで大阪府などは早ければ2029年秋から冬の開業を目指すことになる。

いつもながら気になるのはその経済効果だが、報じられているところの予想では年間来訪者数は約2000万人、近畿圏だけでその経済効果は年間1兆1,400億円が見込まれるという。とはいえあのUSJの最高来場者でさえ年間1500万人弱ということで、この見積もりにやや無理があるとの一部指摘もあるがこの辺は蓋を開けてみなければというところか。

いずれにせよこうした胸算用にいち早く反応するのは株式市場、米ベガスにカジノ関連の子会社があるテックファームHDや貨幣識別機械製造の日本金銭機械など関連銘柄の本命は政府認定と前後し揃って年初来高値を更新してきている。インバウンド需要の活性化にも期待がかかり、折に触れ二番煎じの物色対象も広がりを見せるか。

カジノだけにギャンブル依存症への対策が先ず立ちはだかり収益構造もそのカジノに依存する構図など当然ながら課題も多いが、大阪万博と並びその経済活性化の起爆剤として期待は大きい。今回いち早く政府認定された大阪だが、先行事例の成功が後を左右するため文字通りIR政策の試金石となるか。


弁済順位逆転の衝撃

先週末の日経紙一面では「AT1債、国内富裕層に」と題し、先の経営危機に陥ったスイス金融大手クレディ・スイス・グループの無価値となったAT1債(永久劣後債)を三菱UFJモルガン・スタンレー証券が約950億円分、国内富裕層の個人投資家などに販売していた旨の記事があった。

近年の低金利下で引き合いが多かった劣後債のリスキーな面が改めて露呈してしまった格好だが、国内ではこの三菱UFJモルガン・スタンレー証券以外でもまだ数社がこのAT1債を販売していたとみられる。余談ながら胡散臭い外資に買収された後に経営破綻の道を辿った某取引員も最後の頃は高利率の劣後債を一部顧客に勧めていたのを思い出した。

ところで教科書的な弁済優先順位を無視した処理の副産物が後々マーケットに影響してくるか否かとCSの破綻時に書いていたように、クレディスイスブランドのファンドからは既に約7500億円が流出したほかAT1債の発行コストが上昇し欧州では一部銀行も早期償還の見送りを決めるなどの影響が広がっている。

とはいえ斯様な逆風下で三井住友FGは明日起債予定のAT1債の発行に向け先週から本格的な需要調査に入っているほか、三菱UFJFGも5月下旬以降にAT1債の起債を予定しているなど果敢に新規発行を目指す動きも出ている。はたして日本の大手行によるこれらの発行が世界のAT1債市場回復のトリガーとなるかどうか注目しておきたい。


割安?日本

さて、先週は米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が来日し、日本株への追加投資をする意向を明らかにした件が話題になっていた。バフェット氏の来日はこれで2回目となるが、19年から発行している円建て社債を今回も1644億円の発行を表明したことで日本株への一段の投資拡大も期待され、既に投資が知られているところの商社株中心に物色の矛先が向かうところとなった。

確かにバフェット氏の目から見れば世界の主要株価指数の中でも実績ROEは10%にも満たず、実績PBRも1倍そこそこ、世界株との益回りの乖離をみても割安感漂う日本株は魅力的に映ったのだろう。年利1%そこそこで発行出来るであろう円建て債で為替リスク無くこれを上回る魅力的な配当を享受出来るワケだからなるほどという感もある。

とはいえこの円建て債の調達には発行済み社債の借り換え(償還)に充てる金額も含まれるということで実際に日本株に充てる金額は1000億円一寸になる計算だが、それでも冒頭の通り株式市場では5大商社株が前回の憶えもあって一斉高に、中でも伊藤忠商事は昨年の上場来高値を約5か月ぶりに更新し、丸紅も先月に付けた上場来高値を更新してきた。

それもそのはず、前回に商社へ投資表明した際に殺到した提灯買いは三菱商事など既に大化けしており大ヒットとなった。今回もこれらへの保有比率を揃って高めたとの報でこれに対する提灯買いから先週は商社ポストが沸いたが、前回の商社株への投資表明報道の時から大幅に値位置が上がった今回もここで提灯を付けた二匹目の泥鰌狙いの向きがはたして報われるか否か見ものである。


日経紙で思い出す怖い絵

さて、今週の日経紙夕刊の文化面「こころの玉手箱」はドイツ文学者の中野京子氏の連載だが、第一回目の10日付け月曜日には中野氏が監修した美術展について書かれていた。2017年に上野の森美術館にて開催された「怖い絵展」がそれだが、当時はこの美術館に隣接する上野動物園もつい最近中国に返還したパンダのシャンシャン誕生に沸いていたのを思い出す。

その辺は兎も角も、文中で最初に出てくる目玉作品としたわずか9日間の女王を描いたドラローシュの大作「レディ・ジェーン・グレイの処刑」、末尾の方に書かれていたアートショップで販売された布製ブックカバーの表紙に使われたという「オデッセウスに杯を差し出すキルケー」などの不倫モノ?等々、いずれもホンモノの迫力を前にしばし見入ってしまったのを思い出す。

他にも複数存在するといわれるクレオパトラの毒蛇を使った自害を描いた艶めかしい絵や、主人公が居ない空間を描いたシッカートの「切り裂きジャックの寝室」など、本で見ていたモノと実物とではやはり全く別モノと実感したものだ。願わくは作品の背景から怖さを味わい、作品に恐怖を読み解くヒントがあるという中野氏の視点から選りすぐられ世界中から作品を集めた美術展の第2弾が待ち望まれる。


ウルフパック戦術

一昨日の日経紙法税務面には「不意打ち買収に規制の隙」と題し、複数の投資家がひそかに協調して企業の株式を買い集め、時期をみて一気に経営権奪取を図るいわゆるウルフパック戦術なる動きが日本でも注目されている旨の記事があった。これと似た名のレストランが思わず頭に浮かんでしまうが、現在の大量保有報告制度などの制度の緩さが背景にあるとの指摘があるようだ。

買収防衛策として新株予約券の無償割当が盛り込まれこれが発動されるケースがあるが、このウルフパック戦術を使えば上記発動のケースでも一般株主を装って新株予約権を行使して株式が交付され、この経営権奪取を試みるグループ全体としては議決権の希釈化リスクを回避する事が可能になる構図だ。

会社側もこうした工作を暴くべく躍起になって証拠を押さえる作業に奔走するワケだが、日経紙に事例としてナガホリと共に挙げられていた東証スタンダードに上場するプラスチック成型の三ツ星のケースでは、新株予約権無償割当の対象外となる非適格者が広範に及んでいた事などが問題視され会社側の買収防衛策は裁判所から差し止めされた経緯がある。

斯様に株主間の協調行為を第三者が立証するのは難しさを極めるだけに、金商法の改正を視野に入れ大量保有報告制度含めたルールの見直しなども喫緊の課題となってくるが、これまでに狙われた企業などをみるに低PBRの中堅上場企業がターゲットにされているケースが多く企業側もこれらの指標向上を図るべく経営意識を変えるのに努めるべきだろう。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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