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攻防の行方

昨日の日経紙投資面では「株主が物言う前にやろう」と題し、東証による後押しも背景にアクティビスト天国といわれる日本では株主提案の数が米国に次いで2番目に多い旨が出ていたが、個別では足元で12月決算企業の株主総会シーズンを控えて、花王が香港のオアシス・マネジメントと、また江碕グリコが米ダルトン・インベストメンツと攻防を繰り広げている旨が書いてあった。

しかしこの花王など我々の生活にも馴染みの深い企業だが、投資家目線でいえば連続増配を貫いている企業として有名だ。それもその筈、此処は1991年3月期以降、連続増配が継続されており今の配当予想が予想通りに実施されれば実に36期連続増配が達成されることになる。株価の方は昨年来TOPIXとほぼ同等のパフォーマンスを維持し、12月期の業績予想も純利益が前年比8%増としているがそんな“優等生”でもファンドは容赦ない。

冒頭のオアシス・マネジメントは多数抱えるブランドの取捨選択が必要とし、また社外取締役の選任も求めているが花王側は先月に同ファンドの株主提案全てに反対する意見を公表している。ちなみにオアシスは先月の臨時株主総秋で新たな社外取締役の選任などを求めて株主提案していたものの、これらの議案は反対多数で否決されている。

そんなオアシスだが社外取締役の送り込みに成功した例として2年前のフジテックがあり、その株価は当時の3000円台から翌年の末には6000円台と大きく居所を変えている。米ではファンド側が送り込んだこの手の社外取締役が積極的に経営の舵を取り、その株価も大化けするケースを多く目にするがこうした事例が今後日本でも増えてくるか否かというところだが、いずれにせよ先ずは順次訪れる今月の株主総会に注目したい。


守りの分散

さて先週末の日経紙・投信番付では「金関連ファンド」のランキングが出ていたが、そのうちトップに立ったのは金価格連動型やマイニング系の投信ではなく資産の一部に金を組み入れた日興アセットの「Tracers S&P500ゴールドプラス」であった。ちなみにこの投信は24年末までの1年間でその残高は19倍近くまで増加しているが、もともとは株式と相関性の低い商品に分散する狙いの下に投入されたものだ。

こうした異なる動きをする資産で組むことによって期待リターンを大きく下げないままにリスクを下げたポートフォリオを作れるわけだが、昨今のマーケットはリスク資産である株式が買われる一方で安全資産とされる金も米関税政策懸念、地政学リスクから衰えない国家需要などを囃し年明けも堅調推移し先月は最高値を更新して初の3000ドル大台に迫る勢いであっただけに思わぬ“両取り”が転がり込んだ格好か。

ところで新NISAがスタートしてはや2年目、人気なのはもう判で押したような“オルカン”一辺倒という状況だが、このオルカンの上記でいうところの過去実績から推計した期待リターンは一部アセットでは9%程度と言われている。ところが蓋を開けてみれば昨年の実績はその3倍の30%を超える好成績であった。いささか“出来過ぎ”ともいえるだけに守りの“分散”も今後は有効になって来ると思われる。

そうしたことも背景にこの一辺倒人気のオルカンと金を組み合わせたオルカンならぬ“ゴルカン”こと「ゴールド/オールカントリー株式戦略ファンド」を明治安田アセットが昨年末に設定、日興アセットは冒頭の「Tracers S&P500ゴールドプラス」に続いてナスダック100を加えた「Tracers NASDAQ100ゴールドプラス」を年明けに設定、またSOMPOアセットは金と米国債と組み合わせた「ゴールド・インカムプラス」を昨年末に設定している。上記の“守りの分散”という意味合いから今後も各社からユニークな商品投入が期待される。


還元の流れ

昨日の日経紙投資面では「減配でも増配目立つ」と題して2025年3月期の予想配当性向ランキングが載っていたが、累進配当方針や自己資本に対する割合に応じて配当するDOEの導入など、東証の資本コストや株価を意識した経営の要請を背景にROEを高めようと各社一段の増配等を意識している旨の記事があった。

そういった事で上場企業の2025年3月期は配当総額が約18兆円と4年連続で過去最高となる見通しだが、このランキングに挙がるような大企業はキャッシュフローの実に6割が配当に回っているという。また自社株買いも純利益の約3割が回り17兆円と前年比で7割増加しこちらも3年連続で過去最高になっているほか、直近ではトヨタが初めて株主優待制度を導入するなどこういった優待関係の拡充も目立ってきている。

そういった事もあってこれら上記の総還元性向はかつての40%台から60%を超える水準までに上がって来たと言われるが米国のそれは約90%ともいわれる。ちなみに欧州は過去3年平均で64%ともいわれておりようやくというか日本はこれに追い付いてきたという感じだが、潜在成長率などこうした先進国と比較して見劣りが目立つ部分もある。

そういった理由の一つに成長投資の伸び悩みなどが挙げられ、そろそろこの辺はリスクを取って成長戦略に向けるべきではとの声も少なくない。とはいうものの今は不透明な米トランプ政権の政策はじめ、中国の景気減速など不確実要素も極めて高いという部分もあり、そういった類の投資などリスクを取ってまでしづらい環境下でもあるのも事実なだけにまだしばらくは現況の流れは続くことになるか。


無店舗とデジタルの強味

このところ株式市場ではNT倍率が低下傾向にあり、本日段階で14.03倍と昨年の9月10日以来、約5か月ぶりの低水準になっている旨を日経が報じている。高寄与度の半導体関連株等が冴えず日経平均の足を引っ張る一方でTOPIXを支えているのは銀行ポストで、今年のTOPIX上昇寄与度において業種別では銀行業が首位となっている。本日も日経平均が500円超の急反落で3か月ぶりの安値へ沈む中を三菱UFJやみずほFGなどメガバンクは逆行高を演じていた。

そんな堅調持続している銀行株の背景にはいわずもがな国内金利の上昇による収益の改善期待があるわけだが、そんなポストのなかでも特にここ最近では市場の関心がネット銀行に集まっている旨が先週末の日経紙投資面スクランブルに書かれていた。実際今月に入ってから住信SBIネット銀行や楽天銀行等が急騰し揃って上場来高値を更新し、メガバンク勢を大きくアウトパフォームしてきている。

以前に銀行やライセンスを持った事業者が決済などの仕組みを他の事業者に貸す事で内製化の動きの流れが顕著化すると想定した場合、同事業の市場規模は非常に広いと書いたことがあるが、住信SBIネット銀行のIPOはその想定時価総額から大型案件であったものの、このBaaS事業などの強味が評価され米銀破綻という悪地合いの中でも初値は公開価格を上回る好スタートを切り、ヤマダデンキや高島屋とコラボしてネオバンクサービスを精力的に展開している。

また強力なポイント経済圏をバックにした楽天銀行もアドバンテージがあるが、こうしたポイント経済圏やスマホ決済の広がりで大手のメガバンクとて顧客情報を独占する従前の優位性も崩れてきており、顧客ニーズを汲み取るうえでサードパーティーである各種事業者などとの連携もポイントになってきている。本日は三菱UFJがネット専業銀行を新設する方向で検討している旨が報じられているが、金利のある世界が戻るなか引き続き各社の戦略には要注目である。


J-REITもTOB標的に

昨日の日経紙総合面には長期金利の上昇に弾みがつき約15年ぶりに1.43%に上昇した旨が出ていたが、この影響をもろに受けて冴えない展開を強いられて来たのが東証REIT指数か。個別の投資口価格も下落の一途を辿ってきたが、先週には阪急阪神リート投資法人に対してシンガポールの投資ファンド、3Dインベストメント・パートナーズがTOBを実施すると発表している。同ファンドといえば先月末にもNTT都市開発リート投資法人に対してTOBを実施すると発表しておりこれで2件目となる。

REITの低迷は上記の通り“金利のある世界”になった事もそのベースにあるが、新NISAにおける積立投資枠においては所謂毎月分配型が長期の資産形成にはそぐわないとしJ-REIT特化型投信がその対象から外された事などを嫌気した資金流出が続いた事なども背景になっている。そういった事で株式のPBRにあたるNAV倍率も直近でわずかに2銘柄を除いた残り55銘柄全てが1倍割れの状況となっており、なるほどファンドの食指が動いたのも頷けるか。

東証によるPBRの1倍割れ改善要請ではこの是正に向けて多くの企業が自社株買いなどに走った経緯があるが、上記の状況を背景にこのREIT市場でもこの自社株買いにあたる自己投資口取得が防衛的意味合いも含め昨年は一昨年の実に14倍超となり過去最高の実施件数になっている。そんな状況下にあって今回の立て続けのTOB発表があったわけで、如何に外部から割安と見られていたかがうかがえる。

今回TOBの標的になった阪急阪神リート投資法人は商業施設を軸足にホテルやオフィスも所有するが、足元の円安効果もありインバウンドが大きく影響しホテルは稼働率も客室単価も堅調、オフィスにしても空室率低下で稼働率も上昇している。冒頭の通り金利上昇の逆風も吹くが、上記の件と併せ不動産価格上昇で保有物件の含み益も過去最高水準にあるだけにこうしたTOBから今後この低迷にも転機が訪れるかどうか注目しておきたい。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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