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新興不正

本日の日経紙ビジネス面には「オルツ粉飾 経営陣が関与」と題し、東証グロース市場に上場しているAI(人工知能)開発のオルツに関する粉飾疑惑について同社が第三者委員会による調査報告書を公開した旨の記事があった。所謂循環取引を巡っての不正が明るみになったわけだが、これを受けて昨日の同社株はストップ安に沈み今日も大幅続落となり値下がりランキングでは全市場で4位にランクインしている。

オルツといえば昨年10月にAI関連として鳴り物入りで上場したわけだが、上場半年そこそこでこの粉飾疑惑が持ち上がる異例の事態となっていた。斯様に短期で大規模な不正が発覚した例としては、グロース市場創設前の東証マザーズに上場していたエフオーアイが記憶に新しいところ。半導体製造装置を手掛けていた同社もやはり上場して半年そこそこで売上の9割以上の粉飾が発覚し上場廃止に追い込まれている。

今回のこのオルツには大手ベンチャーキャピタルのジャフコグループも出資していたわけだが、こうしたベンチャーキャピタルや監査法人に幹事証券の目を巧みに搔い潜っていたのが凄い。過度な規制強化は有望なスタートアップ企業の成長機会を削いでしまうという意見もあるなかこれを機に上場審査の在り方も今後変わって来るかどうかだが、市場の信頼がこれ以上揺らがぬよう再発防止の重要性がより一層問われるところ。


MBO最多更新か?

週明け本日の日経平均も高値警戒感から値嵩株の売り物が目立ち大幅続落となったが、そんな中で個別では東証プライム市場の太平洋工業が全般の地合いに逆行高となり年初来高値を更新していた。同社は周知の通り先週に創業家が出資する特別目的会社がTOBを実施、MBOで株式を非公開化すると発表しておりそのTOB価格にサヤ寄せする動きから先週末に続いての続急騰となっている。

その買い付け価格は1株2050円と発表されてはいるが、現在同社のBPSは約2900円となっているだけに本日はTOB価格を超えての大引となった。同社はタイヤバルブ関係首位だが、今後のハイブリッドやEVなど電動化の進展でこうした車部品業界は従前とは異なる製品開発の必要に迫られる。株式の非公開化で大胆かつ長期的な投資に取り組める体制が求められていたわけだ。

ところでMBOといえば本日はもう一つ、東証プライム市場の調剤大手の日本調剤も投資ファンドのアドバンテッジパートナーズがTOBなどを通じて買収し非公開化する方向の旨が報じられている。この業界でもまた再編の動きが広がっているが、ともあれ今年の株式非上場化の件数としては折り返しの6月上旬時点で27件となっており今回の件含め同じペースでいくとするなら過去最多の一昨年を更新してくる勢いだ。

こうした動きを鑑み先にみずほフィナンシャルグループも100億円規模のMBOファンドを立ち上げているが、東証の再編の動きや今後の東証改革も控えて上場コストがそのメリットと比較し高いと意識されるような企業勢としてはこれからMBOというものが一つのソリューションとして台頭してくる流れになるか。


提案も安価に?

週明けにはアクティビストが絡む注目された株主総会を少しだけ取り上げたが、今年のフジHDの総会などは昨年の実に約20倍となる3364人の株主が出席しており、質問は50人に及び開催時間も異例の4時間半に及んだ。先の記者会見が10時間以上に及び何かと注目はされていたとはいうものの、新NISAの影響もあって個人株主の比率も高まっていると感じる。

個人株主の増加といえばもう一つ、新NISA以外にも売買単位の引き下げもまた影響しているか。東証は若年層でも少額から投資出来る環境を整え、「貯蓄から投資」を後押しすべく株式投資に必要な最低投資金額を引き下げるよう要請するよう議論が進んでいる動き等が背景だ。そういった事で昨年は分割も急増し211社にのぼったが、当初の要請からは既に400社以上が株式分割を決議するなどの動きが出ている。

一方で株主提案の要件の方は議決権全体の1%か、議決権300個保有に変更はされていない事で大幅分割した企業などは破格のコストでこの株主提案が出来るようになっている。例えば25分割をやってのけたNTTはバブル期には株主提案には4億円以上の保有が必要だったが、現在では約460万とそれこそ約100分の1の保有で済んでしまう計算だ。

米などではこうした株主提案においては配当額の決定などは不可能でまた決議に法的拘束力も無いが、お求め易く?なった日本の場合はこれらが可能でその権限ははるかに強力なものとなっている。高級車一台分程度の出資で一部のふざけた輩が議論に値しないようなくだらない提案をするケースも多く耳に入るが、買い易くなるような後押しと同時に要件の議決権数や株主権利等も今後は見直す余地もありそうだ。


株主総会2025

今年の株主総会も先週にはピークを迎えたが、先週は特にフジHDや日産、大日本印刷などアクティビストが大株主となっている注目企業の総会が多く開催された。度々各紙でも報じられているが今年はアクティビストによる株主提案を付議された企業は52社と2年連続で過去最高を更新、また議案数も137議案とこちらは3年ぶりに過去最高を更新している。

さてその内容だが、注目されているところでは昨日に開催された冒頭のフジHDは米ダルトン・インベストメンツから12人の取締役の選任案を提出されており、先週開催された太陽HDに対しては香港のオアシスマ・ネジメントが社長を含む取締役2人の解任が提案されていた。フジHDの方は提案された新取締役候補12人が否決されたが、太陽HDの方は総会では異例の事態となる社長の再任案が否決される一幕があった。

ここ数年見ていると主要どころへの株主提案のテーマは昨年や一昨年など増配や自社株買いなど株主還元の類が全体の半数を占めていたものであったが、今年は上記の2社や直近のマネックス・アクティビスト・ファンドが出した大日本印刷への株主提案もそうであったように取締役選任案などどちらかというとガバナンス関連の議案比率が高まっているようにも感じる。

昨年は複数のアクティビストから圧力?を受け、首をかしげるほどの大幅増配を発表し急騰した企業の株を新取締役まで送り込む事に成功したアクティビストがきれいに売り抜けたケースも見られたが、そう考えると今年のそれは短期目線というよりもより中長期目線で成長戦略の具体化など経営力向上を意識した提案割合の高まりを感じる株主総会であった。


“売り”から“買い”傾向に

さて、先週は東証プライム市場に上場している化粧品サイト運営会社「アイスタイル」の業務資本提携を巡るインサイダー取引をしたとして、コンサルタント業の男が東京地検特捜部に金融商品取引法違反容疑で逮捕された報があった。この手の事件といえば昨年は胴元の東証社員や、金融庁に出向中の裁判官まで同容疑で挙げられるという前代未聞の事件が記憶に新しいところ。

ところでこのインサイダー取引といえば、金融庁はTOBを巡るインサイダー取引事件の増加を受け違反した場合の課徴金に関し不正に得た利益に一定の係数を掛け合わせるなどで欧米の水準に近づけるなどこれを17年ぶりに見直す旨が先週の日経紙一面でも報じられている。この辺に関しては2007年ごろの当欄では課徴金を払ってなお利益が手元に残る“やり得”状態と書いていたがあれから20年近く、漸く“やり損”の構図となるか。

しかしインサイダーといえばひと昔前は証券取引等監視委員会も手薄で、その手の情報伝播も今よりはるかに緩かったものだ。それこそ兜町界隈の一部OLクラスでも何故か筒抜けだったこともあったし、夜に舞台を移せば同伴やアフターの場でその手の情報が飛び交っていた光景を思い出す。そう考えると今は末端より川上に近い向きが手を染め摘発されてしまうケースが多くなったと感じる。

もう一つ、日経紙では昨今の東証による資本効率改善要求などを背景にTOB案件に乗る“買い”の事例が多く挙げられるが、ひと昔前のインサイダー取引といえば買いよりも巨額増資や企業破綻などに乗る“売り”目線のインサイダー取引が横行していた感がある。なので確信犯のカラ売りが嵩み逆日歩も超高額になり後半に乗った連中は破綻しても持ち出しになってしまう笑えない事例もあったものだ。まあそう考えるとこうした禁断の“買い”案件の増加も時代を感じざるを得ない。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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