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安定株主無き後

本日の日経紙投資情報面では豊田自動織機がグループの株式持ち合いで岐路に立っている旨の記事が目に付いたが、政策株に絡んでは先週の日経紙一面でも「政策株売却 最高の3.6兆円」と題し東証による資本効率の改善要請を背景に2024年3月期の政策保有株の売却額が3.6兆円と前期比9割増で過去最高になったとの記事があった。そういった事で政策株の保有比率はバブル期には60%超えであったものが今や約26%、全体の4分の1にまで減少してきている。

さて、複数の外資系証券の試算では全ての政策保有株が自社株取得や消却で解消された場合では日本企業ROEが現状の9%から10%に改善するとの試算もあるが、この10%の壁がなかなか高いのが現状。背景には今月に財務省が発表した法人企業統計等で見られた通り経常利益や利益余剰金が過去最高額となるなど企業の稼ぎで自己資本が膨らんでいる事などがある。

とはいえ今年の4月から7月までの自社株買い発表の金額は、22年の4兆7千億円、23年の4兆5千6百億円から今年は7兆9千6百億円と急増。しかも8月アタマの暴落以降翌日から続々と自社株買いの発表をする企業が続出しており、あのブラックマンデー後の米国で起きた主力企業による自社株買い現象を彷彿させる。

今後も政策株売却の動きが加速してゆくかどうかだが、一方で安定株主が緩衝材となりプレッシャーがかかり難かった経営陣は、売却促進で彼らが居なくなってしまうとアクティビストの提案も通り易くなり更には買収リスクにも晒される環境下にもなって来る。先にセブンアンドアイHDも大手から買収提案を受けていたが、安定株主無き後は株主構成の変化を意識しながら政策株売却で得る資金を活用し企業価値を高めるべく緊張感のある経営が経営陣にはますます求められることになるか。


投資から協業へ

本日の日経紙マーケット面には「ゲーム投資サウジ新局面」と題し、サウジアラビアの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)が保有するゲーム株を2025年以降に傘下の事業会社に移す見通しで、中東での事業展開やIP(知的財産)活用など投資先との協業を加速させるなど日本のゲーム企業への投資が新たな局面に入ってきた旨の記事があった。

昨年の1月にこのパブリック・インベストメント・ファンドの保有状況を取り上げた時点での主な個別の保有比率は任天堂で6.07%、ネクソンで9.14%、コーエーテクモHDで5.03%であったが、今日の日経紙で載っていた直近の保有状況は任天堂が8.58%、ネクソンが10.23%、コーエーテクモHDが8.97%といずれも買い増しが進んでいるのがうかがえる。

これら以外にも同じく保有比率を引き上げて来た東映株などもあるが、「スーパーマリオブラザーズ」を擁する任天堂よろしく東映も連結子会社が「ドラゴンボール」を擁するなどいずれも投資先は抜群の知名度を誇るIPを持っている。そういえばサウジはこのドラゴンボールの世界初となるテーマパークの開発地としても選ばれ話題になったが、これには東映アニメーションが協業する。

前にも書いたことだが、脱石油依存を見据えた彼らにとって経済的パートナーとしての日本のプレゼンスが高まって来ているだけに、世界で断トツの知名度を誇るコンテンツを擁する日本のエンタメ産業各社も宝であるIPを武器にこうした潮流は大きな商機と捉えて臨むべきだろう。


分割あれこれ

先週に2023年度の株式分布状況調査の詳細が東京証券取引所から発表されているが、NTTの株主数が2022年度比で2.5倍と上場企業で14年ぶりに首位となった旨を日経紙が報じていた。この辺の背景にはやはり昨年の25分割という大幅分割が影響していると思われるが、一方でトヨタやオリックスは株価上昇による配当妙味減少や株主優待廃止の影響で株主数が減少することとなった。

ところでこのNTTだが、今年の株主総会で一個人株主が自身を取締役にするよう求める株主提案をしたのが話題になった。大幅株式分割によって会社法による株主提案条件の議決権取得のハードルが大きく下がった部分を突かれた格好で、大幅分割では何処の株式も購入のハードルが下がるが同社のケースでは株主提案もし易くなってしまったということか。

株主提案というところが実に今っぽいが、大幅な分割を巡っての事件?といえばやはり今は無きライブドアが記憶に新しい。上場後から数度にわたり分割を繰り返していた同社だが、2003年に行った100分割は衝撃でその後には実にストップ高を15日間続けるという仕手株も真っ青な離れ業をやってのけた。これらを経てその時価総額も急膨張し派手な買収の原資になったのは言うまでもない。

望ましいとする最低投資金額の指針により今でこそ分割も東証が後押しするような機運になっているが、上記の“分割バブル”を思い出すに隔世の感を禁じ得ない。そんな中でもいまだ最低単元が数百万にもなる高株価企業が散見されるが、将来的には米国のように1株から購入出来るようになる日がおとずれるのかどうかこの辺も動向にも注目しておきたい。


緩和トレード逆回転

先に日銀は政策金利を0.25%程度に引き上げる追加利上げを決めたが、この決定から米景気の先行き警戒感も相俟って市場はボラティリティの波で大荒れとなっている。所謂インフレトレードの逆回転が一気に表面化しドル円相場は約7か月ぶりの141円台へと一気に上昇、本日の日経平均に至っては前週末比4451円安と実にあのブラックマンデーの時の下落幅を超え過去最大を記録した。

先物市場では日経平均が英ブレグジット以来、TOPIXは東日本大震災以来のサーキットブレーカーが発動される事態になったが、こうなると225オプション市場など非常に熱い。プットなど24000円や25000円の行使価格はそのディープアウトさから先週の日経平均1000円安でもその値は1~3円と反応乏しかったが、当限の250プットなど先週末の終値3円から本日はザラバ600円と200倍の大化け、同じく当限の240プットは先週末の終値2円が本日のザラバで480とこちらは実に240倍になっている。

個別では多くの企業が堅めに置いた2025年3月期の想定為替レートをあっという間に割り込む円高で主力の輸出企業株が売られるのはもっともな流れだとしても、円建て債で運用しているバークシャーの戦略見直し観測から伊藤忠商事がストップ安の暴落、またここから日銀の追加利上げが見込まれるなかにあって早くも資金調達需要の変調を見越しメガバンクの三井住友銀行もストップ安まで暴落する光景をもう終わりだと見るのかチャンスと捉えるのか?

つい最近には「新NISA」の個人購入額が旧NISA時代の上半期実績の約4倍にもなる7.5兆円を超え、その内訳は約4割が日本の個別株に流入と報じられていたが、その中でもベストスリーに入る人気を誇っていたJTもまた本日はストップ安まで暴落する展開に。新NISAの高らかな掛け声で一斉に大挙した彼らはこの度の急落をどう見ているかだが、いずれにせよリスクこそがリターンの源泉、個人的にはなかなか見られない荒れ相場にワクワクしながら臨みたい。


コングロマリットディスカウント

周知のようにコンビニ大手のローソンが先週末に上場廃止となっている。既に報じられている通り通信大手のKDDIによるTOBが成立した事によるものだが、このプライム市場における最後の発表では3月から5月までの決算で最終利益が169億6700万円と過去最高を記録、有終の美?を飾ったかっこうになったといえようか。

ところで上記のローソンに見られる通り、親会社と子会社が共に上場する「親子上場」は、昨年2023度には前年度比で1割減少し190社とピークの2006年度から半減した旨の記事が先週の日経紙に出ていた。5年ほど前だったか親子上場の解消が加速した時期に同紙の一面にこの件が報じられた事があったが、その時には288社と報じられていたからそこから約100ほど更に解消が進んだという事か。

そういえば以前当欄で取り上げたベネフィット・ワンも当時でその時価総額が親会社パソナの5倍超にもなる超親子逆転現象であったが、TOBの実施中であったエムスリー社は途中参戦した第一生命に売却先が変更される一幕もあったなと。他にもこの「ねじれ」で似たパターンではGMOインターネット・GMOペイメントゲートウェイや三菱ケミカルGと日本酸素HDなどがあるがこれらは親子上場をいまだ維持している。

解消組の富士ソフトなどはアクティビストからの要請をのんだ経緯があるが、利益相反や資本関係の非効率を突いて今後も物言う株主からの提案は増える事はあっても減ることは無いだろう。この親子上場も株式持ち合いと同様、日本独自の特異な商習慣ともいえようが東証の企業統治改革要請やアクティビストなどの圧力にこれらの浄化?も粛々と進行してゆくことになるか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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