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崩れる黄金律

日銀が先週に発表した2025年4~6月期の資金循環統計(速報)だが、2025年6月末時点で家計の金融資産残高は前年同期比1%増の2239兆円と過去最高になった模様だ。引き続き新NISAを背景に投資信託や株式への資金流入が続き前回より国内株式が上昇し残高を押し上げた一方で、こうした投信などへの資金シフトを背景に現金・預金は前年同期比で0.1%減の1126兆円であった。

一昨年だったか、この家計の金融資産について触れた時にはその末尾で「~貯蓄から投資と言われて久しいものの日本人は長らくデフレに慣れきってしまい金利も貰えていなかったが、インフレが続けば当然ながら現金の価値は目減りしてくる。」と書いていたが、今回この現金・預金の伸び率が2006年12月末以来、実に18年半ぶりにマイナスに転じたのは注目に値するか。

長らく続いたデフレ時代ではモノの値段が上がるどころか何処も彼処も安値合戦が繰り広げられていた事で円の価値が大きく目減りする心配も無く銀行預金はたまたタンス預金などゴールデンスタンダードだったが、賃金が一向に上がらないのに容赦なく物価が上昇するのが定着し家計を圧迫する事象が漸くインフレを実感させることとなり一般の認識も“脱預金”にシフトしてきた証左か。

政府の後押しもあって身近に現金を置いておく文化的価値も右へ倣えで方向転換してきたが、それでも黎明期?だけに株式や投信等の比率はまだまだ欧米の足元にも及ばないのが現状。これからの伸びしろを考えるにまだまだ増加すると思われるが、同時に悩ましいのがこの気運を商機?と捉えた情報弱者を狙った投資詐欺の類か。そういった意味でも金融リテラシーの強化も喫緊の課題だろうか。


注目案件の続々上場

当欄では6月に米IPO復調の旨を書いていたが、そこで4月に関税政策の影響で上場を延期し今後注目と書いていたBNPL(後払い決済)大手の「クラーナ」が先週10日にはれて上場を果たした。注目の初値は52ドルで公開価格の28ドルを30%上回りその後も一時57ドル超えまで上昇する好スタートとなったが、その調達額は13億ドルを超え夏に上場したサークルやフィグマに続く大型案件となった。

翌日11日には三菱UFJFGが2020年から出資している企業でもあるブロックチェーンを活用した融資プラットフォームを提供する「フィギュア・テクノロジーズ」がナスダックに上場しており、更に12日には暗号資産プラットフォームを提供するジェミニ・スペース・ステーションもナスダックに上場している。こちらの方は公開価格28ドルに対して37.01ドルで初値を付けその後は45.89ドルまで急騰するなどボラタイルな展開になった。

米IPOが急増した年といえばSPACを上場させ後に事業会社を買収するというSPAC型が流行った2021年が記憶に新しいが、今年の米IPOによる調達金額は既に昨年に匹敵する水準になっており今年はこの2021年以来で最高の年になるともいわれている。ただその盛り上がりを見せたSPAC型は、当時の当欄でも取り上げ“白紙小切手?”と書いたように高リスクが伴い株主に損失を齎した例が数多あった。

そう見ると今年のそれはその調達規模だけにとどまらず収益性も高い成長戦略がしっかりしている企業が目立つ印象だ。先週のIPO組のようにフィンテックものは米の関税政策の影響を受けにくいうえに、トランプ政権の金融市場における一部規制緩和も追い風になるとも思われるだけに今後もこれらの動向には注目しておきたい。


東証要請にファンドの影

先週末の日経紙夕刊では日経ヴェリタスから「マイクロ株に隠れた好機」と題し、日本の上場会社4000社のうち時価総額が300億円に満たないマイクロ株が6割を占める旨など書いた記事があったが、マイクロといえば次期東証改革ではグロース市場に適用する時価総額基準の厳格化があり、上場から5年経ってなお時価総額が100億円未満だった場合は上場廃止にする方針としている。

今年の3月末時点でこれに該当する企業は400社以上にものぼるが、中には株価2桁台からビットコイン事業に舵を切ってその株価が四桁台にまで大化けしたメタプラネットのような銘柄が出てきた事でこの手の財務活動が注目されている動きも見られるという。同社の場合は第三者割当で新株予約権をファンドに発行、株価上場時に新株を取得し市場売却した資金を払い込まれた企業がこれを以て再度ビットコインを購入する構図だ。

ちなみにこのケイマン諸島籍のファンドはエボリューション・ファイナンシャル・グループだが、商品先物業界とも縁があり代表的な案件としてはかつてジャスダックに上場していたあの「エース交易」を2013年末に傘下に収めている。その辺は兎も角も他のポストでも女性アパレル、ANAPホールディングスもビットコイン現物による第三者割当増資を国内初の事例として実施するなどファンド絡みの案件が目立つ。

新興勢が上場後に成長を着実に積み重ねてゆくとしても上記の東証が要請する基準に5年という期間では到底時間が足りないケースの場合、業種を広げてM&Aなどで時価総額を上げてゆこうという所謂ロールアップの動きの顕著化も一部予想されているが、ファイナンスを駆使したファンドが絡む財務戦略も出てきた事で今後も基準未満の銘柄群の動きが注目されるか。


爆益ETFの行方

本日の日経紙投資面には「日銀、ETF売却へ前進か」と題し、先週の日銀副総裁の公演で日銀が保有するETF(上場投資信託)の処分について触れていたことでこのETFの処分時期が近付いたとの思惑が書かれていた。これまではこの件に関して「時間をかけて検討する」との答えであったが、今回の講演ではこうした部分が無かった事でより一層思惑が募ったようだ。

7月に日銀絡みのETFについて書いた時にはその簿価で37兆円、3月末時点では時価にして70兆円と書いていたが、その時価もその後の株価上昇もあって先月末では初めて80兆円を超えている。上記の通りその簿価から見て含み益は40兆円以上と倍化しているわけだが、同紙では現在進めている重要な作業であるところの利上げが一段落した後に処分を始める観測が書かれている。

その扱いに関してはこれまでも野党の一部から子育て支援案を絡めたものや別機関への移管・分離案から個人への譲渡案など数多の案が出ているが、いずれにせよ先に日銀は金融システム安定策の一環として銀行から買い取ってきた2兆4000億円あまりの株式の2016年からの継続売却を完了させており、嫌でも次の一手に関心が向かうところ。


独自路線を評価

本日の日経紙投資面には東証プライム市場の西武ホールディングスが不動産を核とした成長戦略に期待が向けられ上場来高値を更新した旨が出ていたが、本日も日経平均が反落するなか同社株は続伸し連日で上場来高値を更新してきている。今年は虎の子の「東京ガーデンテラス紀尾井町」を米ファンドに売却しているが、株の方も上手い具合?に空売りを誘う格好になっているだけにこれも上げの原動力となっている格好か。

バブル世代には思い出深いあの“赤プリ”が鎮座していたところもすっかり様変わりして久しいが、再開発などでその価値を上げてイグジットするパターンでは此処は超ド級クラスの案件として話題になったものだ。鉄道業界も少子高齢化の煽りをうけ輸送人員減少などで先細りが懸念されるなか、私鉄大手各々の戦略が注目されるところだが同社の場合いち早く独自路線に舵を切った格好だ。

“西武”といえば上記とは関係ないが、ヨドバシが買収した西武百貨店の方も先に1700㎡のフロアに47ブランドを擁し国内最大の“美のテーマパーク”を誕生させている。面積は改装前の1.4倍、売上目標も同率で増やすべく美容部員も1.6倍に増やし客の買い物をサポートする。コスメ市場もコロナ禍でEC化が広がったが、5類移行でコト消費型のニーズが強くなっているだけにこちらも戦略が奏功するか見ておきたい。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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