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逆ザヤ苦境

本日の日経紙総合面には全国の地銀97行が保有する日本国債や外国債券、投資信託の含み損が2023年3月末時点で合計1兆8000億円と、1年前に比べて5倍に増えた旨が出ていた。欧米は言わずもがな日銀も昨年末に金融政策を修正するなど世界的な金利上昇による債券価格の下落が大きく影響した格好だ。

地銀といえば本邦勢もさることながら更に深刻な状況なのは米地銀勢か。同じく同紙のグローバル面には米株式市場で経営不安が高まる地銀株を標的としたファンドなどの空売りが勢いを増している旨も出ていたが、回転が効いているだけにこれらのポストの空売りによる利益は3月から5月上旬までの間で既にリーマン・ショック時並みの水準に上った模様。

浮動玉に対する空売り比率が平均で8割近くにも達したモノもあるといい日本なら即売り禁で逆日歩攻めに遭いそうな感じだが、それは兎も角もこれまでの金利環境下で構築していたレバレッジ経営のアセットが全て劣化してしまっている現状だけに厳しい状況だ。長短金利はここ30年で最も逆転している現状で、前にも書いたがこの辺が信用収縮に繋がってくると経済全般の下押し圧力にもなってくるだけに今後も注視しておく必要がありそうだ。


G7のジェンダー平等

さて、目前に控えたG7広島でもジェンダー平等は注目される議論の一つであるが先週の12日付け日経紙ではジェンダーギャップ指数や、グローバルから見た日本の課題を浮き彫りにすると共に先進企業による女性活躍推進の“異次元の解決策”を徹底討論するジェンダーギャップ会議の全面広告が出ていた。

前にも書いたが、昨年のジェンダーギャップ指数は146か国中で日本は116位と下位に甘んじG7の中では最下位と不名誉な順位となっている。特に経済では女性管理職の少なさなどが足を引っ張り下から26番目の121位となっているが、先月の男女共同参画会議では首相が東証プライム上場企業の女性役員の割合について2030年までに30%以上とする事を目指すと新たな目標を示している。

いまだ女性役員がゼロの大手企業が存在する日本だが、米S&P500や英FTSE350指数構成銘柄は女性取締役の居ない企業は無くいずれも取締役総数の3割を女性が占めている。上記の首相が掲げた目標はこの辺を意識しているものと推測されるが、微増にとどまる女性社内取締役の嵩上げは急務と思われROEやPBRと並び欧米の株価指数がこれまたお手本ということになる。


募る思惑

先週末は決算発表のピークであったが、なかでも目についたのがソフトバンクGの決算で2023年3月期決算は9701億円の赤字となっていた。2年連続の赤字は実に18年ぶりの事となったが、要因はやはり昨年に続いてのビジョン・ファンド。世界的な金利上昇による投資先の株価下落や、景気減速による業績悪化が決算に大きく影響を及ぼした。

昨年の決算会見を思い返せば徹底した守りに入る旨を強調していた経営トップであったが、虎の子のアリババGの株式放出で5兆円近くもの利益を出すも要のビジョン・ファンドの5兆円を超える損失によりこれをカバーするには至らなかったか。一方で今年の会見ではCFOが攻めのタイミングを見極めてゆくと守り一辺倒からニュアンスの変化も見られた。

ところで同社といえばアリババに取って代わる主要資産を狙い、直近で傘下の英半導体設計アームの米市場でのIPOを申請している。これが実現して高い評価を得られれば上記の経営方針変化とも併せ、予てより囁かれている同社を巡るMBO観測の現実味も一段と増すというものだがそれら含め今後も同社の動向には要注目としたい。


ESGを巡る青と赤

さて、ちょうど1週間前の日経紙国際面には「米フロリダで反ESG法」と題し、地方債を発行する際にESGの要素を考慮することが禁じられるなどESG投資の活動を制限する「反ESG法」が米南部フロリダ州で成立した旨の記事があった。署名したのは反ESGの旗頭ロン・デサンティス知事だが、他にも保守系17州で反ESG法案の準備が進んでいる模様だ。

日本では金融機関などESG投資への取り組みを強化し、自治体などもESG債の発行が近年では急速に増えてきているが、米ではこれに逆行する形で気候変動などを重視する民主党の支持者が多い州と、石油ガス業界や防衛産業を推進する共和党の支持者が多い州の間でESGを巡る社会分断が深刻な状況に陥っている。

積極推進派のニューヨーク州は公的年金運用を2040年までに温暖化ガスネットゼロ目標、またメイン州では2026年までに年金の化石燃料への投資撤退を表明するなどの一方、反ESGを掲げる冒頭のフロリダ州は昨年末EGSを意識すると掲げている世界最大の運用会社ブラックロックから20億ドルの資産を引き出し、同じく反ESGのウェストバージニア州は全米で初めてブラックロックとの取引を停止している。

ロシアのウクライナ侵攻等でエネルギー確保と安全の重要性が高まるなかで石油や防衛関連株などこうした産業への投資はESGの理念と矛盾するものの、確かに昨年はこれらの銘柄が運用成績に大きく寄与したのは否めない事実。運用において理想主義が最良のパフォーマンスにつながるのか否か? リベラル派からの圧力で投資の自由が奪われるという意見もわからないでもなく、政治的分断がエスカレートするなかESG投資にどうかかわるか運用会社も難しい選択を迫られそうだ。


脱米ドル依存?

一昨日は米地域金融機関の連鎖破綻を取り上げたが、そうした事も一部背景にあり安全資産とされる金が2000ドルの大台超え後も堅調持続している。この辺は先の日経紙総合面でも取り上げられていたが、ここでは特に新興国中銀を中心にした金買いが顕著で、先週発表された23年1~3月期の金買いは1~3月期としては10年以降で過去最高を記録している旨が書かれていた。

足元では特にトルコや中国の金の積み増しが目を惹くが、上記日経紙の文中では中国の3月時点の金の総保有量は約2068トンで過去5か月の間に100トン以上保有を増やした旨が書かれていたが、7日に発表された直近の保有量は約2076トンと更に8トン増加とこれで6か月間連続の増加でこの期間に6.6%積み増した旨が明らかになっている。

斯様に米と一定の距離を置く国は米ドル中心の既存の通貨の覇権に挑み脱米ドル依存を鮮明にしてきているが、確かに実質金利が上昇しているにもかかわらず金が史上最高値を舐めに行く動きを見せているのはこうした要因以外でも何らかのリスクプレミアムを乗せているともいえる。上記の背景以外にも目先では米債務上限問題等も控えているだけに、今後も折に触れ物色の矛先が金に向かう素地が整っているのは間違いの無いところか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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