秋の分割ラッシュ

多くの企業が下期入りする10月だが、昨日1日を効力発生日として、家具のニトリ、ドンキ運営のパン・パシフィック・インターナショナルHDや先に米USスチールの買収劇で沸いた日本製鉄など実に67もの企業の「株式分割」が行われちょっとした“分割ラッシュ”の様相だ。この株式分割、ここまででも今年4月から先月9月までの株式分割件数は前年同期比で2割増の124件となり12年ぶりの高水準となっている。

上記のニトリなど分割実施は11年半ぶりと久し振りになるが、今回の分割ではつい2年前に4分割した建材商社の高島などは早くも2分割を再度実施し、ジャパンエレベーターサービスHDは上場後これで4度目の株式分割である。一方で同じ2年前に3分割を実施したユニクロを運営するファーストリテイリングは以降再分割の動きはみられず分割してなお最低購入代金は本日現在でも440万円を超えている。

東証が努力義務としてきた最低投資金額は50万円未満であったが、4月にはこれを個人投資家が求める水準として10万円程度に引き下げるよう全上場企業に要請している。今回の分割ラッシュでは発表日の終値ベースで最低投資金額が50万円未満だった比率は6割を超えていたというが、確かに新NISA投資枠など考慮するにまだまだ値嵩モノは買いたくても他銘柄が組めなくなってしまうのが現状か。

東証要請以外でも近年では持ち合い株の解消が加速しており、これに活発化しているアクティビストの存在も絡むだけに安定株主作りはどこも課題になっている。今回は銘柄数が多いだけに中には分割後の最低単元から株主優待がもらえるものあり、今が“旬”の値嵩テーマ株もハードルが下がりより選択肢が広がってきたが、上記の件もあり今後も企業は個人株主の取り込み含めより一層の舵取りが要求されるか。


価格転嫁とPB強化

10月となったが今月の値上げ状況も半年ぶりの山になりそうな気配で、帝国データバンクによる主な食品メーカーにおける今月の飲食料品の値上げは3024品目となり、今年4月以来6か月ぶりに3千品目の大台を上回っている。これで1月から10ヵ月連続で前年を上回る事となり、連続増加期間としては前月に続いて2022年の統計開始以降で最長を記録することとなった。

今月は食品分野別では「酒類・飲料」が2262品目で最多、遂に500mLペットボトルも200円時代の到来である。次いで加工食品の340品目、調味料の246品目と続くが、消費者における物価高への反発は根強く割安商品へのシフトといった節約志向が続いている。小売り大手もPBブランドのラインナップを増やしたり、定期的な値下げを行うなど節約志向に対応し価格競争力を維持すべく今後も低価格戦略を貫く姿勢を鮮明にしている。

今年の値上げは賃上げによる労務費など粘着性が高く国内経済情勢に起因した圧力が強まっており、特にこの人件費では昨年以降続いた賃上げによるコストアップが時間差で価格に反映されているとしている。そもそも食品セクターは業界別での平均年収が相対的に低い企業が少なくなく賃上げの流れは避けられない事態、そうしたことからこうした賃上げを起因とした人件費上昇からの値上げの動きはまだしばらく続くことになるか。


初の20000円大台

さて今月に入ってすぐの当欄では「初の18,000円台」と題し、金の国内小売価格が初めて1g18,000円を超えてきた旨を書いていたが、月が変わらぬうちにこの金の小売価格が昨日初めて1g20,000円の大台を超えてきた。なんとも上げのピッチが加速してきた気がするが、もう少し長いスパンで見ても金価格が初めてg10,000円の大台を超えたのが2023年、それからほぼ2年で価格が2倍になったわけである。

斯様な状況であるからNISAの成長投資枠でも使えるETF等も然るべしで、本日の三菱UFJの現物国内保管型の純金上場信託は19,000円の大台に乗せて高値引けし年初来高値を更新、老舗?のSPDRゴールド・シェアも年初来高値を更新し、iシェアーズゴールドETFや野村の金価格連動型上場投信、同じく野村の金先物ダブル・ブルETNなど揃ってどれも商いを伴って年初来高値を更新してきている。

思えばウクライナ侵攻が始まった頃に当欄では「金の過去最高値をチャンスとばかりに手持ちの金製品を買い取りショップで換金して帰る顧客の満面の笑顔と、戦闘の極限状態にある現地の恐怖に歪む人々の生々しい顔の対比が実に残酷に映る」と書いたものだったが、そうした地政学リスクも恒常的なものとなり、最近では値上がりにつれて当時と比較し新規購入の向きも大きく伸びているという。

気付けば世界の外貨準備に占める米ドルの比率も99年には7割を超えていたものだが、米ドルに対する信認低下も相俟って昨年はこれが6割を切る水準になっている。いまだトランプ政権とFRBのゴタゴタが続いているが、そういった事も背景に各国中央銀行は粛々と金を積み増しておりこうした“浮動玉”の吸い上げが近年のトレンドに寄与している面も否めないか。


新規上場彼是

本日は東証プライム市場にソニーFGが再上場を果たした。ソニーの完全子会社化で20年に上昇を廃止した同社だったが、今回「パーシャルスピンオフ」により分離・独立し公募や売り出しを伴わないダイレクトリスティング方式による再上場となる。注目の初値は流通参考価格150円に対し36.7%高となる205円で寄り、引けは173.8円で初日を終えることとなった。

さて新規上場といえばもう一つ、先週には同じくプライム市場に沖縄の「オリオンビール」が上場している。製造業としては沖縄県内初の上場となるが、その知名度もあり応募倍率は個人が約90倍、機関投資家も40倍と前人気も高かったこともありこちらの初値は公開価格の850円に対し約2.2倍の1863円となり、あと2262円まで上昇する場面も見られた。

先に開業したジャングリア沖縄へも出資している事などで同施設での商品提供、オフィシャルホテルも獲得しているが、オリオンといえば2019年に野村HDと米の投資ファンド、カーライル・グループが約570億円で創業家から買収したのが記憶に新しいところ。約6年を経てのイグジットとなったわけだが、これで10%超の株式を保有するアサヒビールが筆頭株主となる。

これまでは県内で製造・販売するビールを対象とする酒税軽減措置等があり、年平均成長率など見ても筆頭株主のアサヒの約5倍を叩き出していたがあと1年ほどでこれが終了することで今後はこの辺が課題になって来る。同社は株主優待品でオリオンTシャツも用意しているが、こうしたグッズ類のライセンスビジネスの伸びしろも今後のキーワードになってくるか。


アメリカン・ジゴロ

先の日曜日の日経紙・TheSTYLEでは「アルマーニ氏を悼む」と題し、今月に逝去したイタリアのファッションデザイナー、ジョルジオ・アルマーニ氏の特集記事が載っていた。伊のファッション界ではジョルジオ・アルマーニとジャンニ・ヴェルサーチ、それにジャンフランコ・フェレの3名が「ミラノの3G」として君臨していたが、ヴェルサーチ氏は97年にショッキングな事件で逝去し、フェレ氏は2007年に病死、最後に残っていたのがアルマーニ氏であったがこれで“3G”は全てこの世を去ってしまった。

思えばアルマーニを知ったのはバブルが盛り上がって来た頃に見た映画「アメリカン・ジゴロ」から。あの頃は主演のリチャード・ギアが自室でアルマーニの服を鼻歌交じりにスタイリングするシーンを見て“私もいつかはアルマーニ”と皆が憧れを抱いたものだったが、男性のみならずこの頃には男女雇用機会均等法が施行され、女性も男性同様の地位を得られるとキャリア志向が強くなるのと並行してこのアルマーニを好むご婦人方が増殖したものだった。

アルマーニ氏が影響を受けたのはシャネルと聞いたことがあるが、なるほどシャネルは女性をコルセットから解放した事で有名で、アルマーニは従来のスーツには無かったやわらかい生地を用い芯地や肩パッドを外し身体に自由を与えたファッションはこの辺をオマージュしたともいえるか。同氏は衣服のみならず家具や化粧品、レストランに至るまで日本でも展開し故郷イタリア等ではホテルも展開するなどその名はライフスタイル全般に広がっている。

斯様に一代で築き上げたアルマーニ帝国だったが合従連衡が激しい業界にあっても巨大資本に入る事を拒み独立経営を貫いてきた同社も、報じられているところでは今後会社の株式を譲渡する候補としてあのLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンはじめ他数社が挙がっておりIPOの可能性も排除しないという。同氏の旅立ちは単なる3Gの終焉でない規模だけに今後受け皿企業がどう動くのか、この辺からも目が離せない。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

カテゴリー

アーカイブ

2025

10

1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31