分断とESG

昨日に続きまたトランプ新政権に絡んでだが、本日の日経紙・中外時評では「トランプ時代のESG2.0」と題し、投資に脱炭素や人権などの問題を関連付けるバイデン政権下で進んだESG政策がトランプ次期大統領のもとこのまま消えゆくのかとの記事があった。ESGといえば昨日の同紙でもESG社債発行が18年以降初めて前年同期を下回り、曲がり角を迎えている旨も載っていた。

ここでもトランプ氏が大統領になると企業のESG債の発行意欲が世界で更に後退することになりかねないとの懸念が綴ってあったが、とにかくESGを巡っては昨年など株主総会でのESG提案一つとってもその平均賛成率は22年通年から低下し、ESG投資が本格化する前の16年以来の低さとなるなどこの推進を求める株主提案への支持率が下がっている光景等が見られた。

他に米格付け会社のS&Pグローバル・レーティングも信用格付けリポートに記載していた企業のESGの定量評価や収益目標についての公表を取りやめており、反ESGを掲げる州から運用資金を引き揚げられたブラックロックのCEOもこの用語が攻撃材料として使われる為に自身としてはもう使うつもりはないと公言した件もあった。

政治との距離感という意味合いでは既にこの頃から共和党の勢いを軽視できなかったわけだが、斯様に米を筆頭に社会分断が如実に表れ運用会社などもこの距離感で苦慮する姿が昨年から確認出来る。今後新政権下では米に進出している日本企業も環境債含め影響される場面が出てくる可能性もあるだけに分断を睨みながらの対応も求められそうだ。


戦略に忠誠心

本日の日経紙社説には「トランプ氏に歯止めはあるか」と題し、上院・下院共に共和党多数のトリプルレッドが叶ったことで民主主義の根幹をなす三権分立が機能するのか憂慮せざるを得ないところに次期政権の異質さがある旨が書かれていたが、既に「政府効率化省」のトップに起用される見込みのイーロンマスク氏との蜜月関係も連日のように報じられている。

幾つもの刑事裁判を抱えながら当選を果たしたトランプ氏だが、上記以外でも次々と明らかにされる人事もなかなかだ。ザッと挙げても厚生長官には新型コロナの陰謀論者で反ワクチン波のロバート・ケネディ・ジュニア氏を起用予定、保険行政の混乱が懸念されるが、他に国務長官には対中強硬派で中国からも制裁対象者にされ入国禁止措置まで受けているマルコルビオ氏を予定している。

極めつき?は司法長官には売春疑惑や薬物使用疑惑で司法省から捜査を受けていたマット・ゲーツ氏を指名、副長官にはトランプ氏の不倫口止め裁判で主任弁護士を務めたトッド・ブランチ氏を指名している。他にも国防長官にはかねてよりトランプ政権寄りの報道を続けて来たといわれていたFOXニュースの司会者であるピート・ヘグセス氏を指名、彼には政治経験が無くかつて女性への性的暴行疑いで取り調べを受けていたことも発覚し批判の声も出ている。

政治経験が無い向きの起用といえば、日本では石破政権による石破流人事も話題だ。外務政務官に選ばれたのが安倍政権下で当選1回の生稲晃子氏だが、議員になって2年目で交渉経験も無い同氏を充てるのははたして如何なものかと懸念の声が挙がっている。ただ両人事で全く違う点は自身が成し遂げたいものの実現のために一期目の反省を経て人選するようなストラテジーがあるかまったく無いかが決定的に違うところか。いずれにせよ予測不能な4年間という不透明な新時代が始まる。


非上場化という選択

周知のように先週はセブン&アイHDが創業家の資産管理会社から買収提案を受けたとの発表をしている。創業家側はMBOの実施に向けて既に3メガバンクなどに具体的な資金調達の手法などについて打診しているとみられるが、このセブン&アイといえば当欄でも触れていたようにカナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けているおりその対抗策との意味合いが強いか。

ただ足元での実質企業価値を上回る資金を3メガバンクから調達しようと思えば金融機関に対しそれなりにMBO後も企業価値が上げられることの明確な説明が必要で彼らがそれを受け入れるかどうか、またこれら3メガバンク以外でもかつて米セブンとの契約において仲人役を務めた伊藤忠商事にも出資を打診している模様だが、周知のように同社はファミマを子会社にしている。

その先にはコンビニ大手同士の協業が進む可能性も無きにしも非ずだがこれらいずれも現時点では全く不透明。というわけでこのMBOが叶うか否かは別として近年MBOが目立つ。ちょうど昨年の今頃はシダックスやベネッセホールディングス、大正製薬などの大型MBOで沸いたのを思い出すが、当時の当欄ではMBOはアクティビスト等の株主から解放され自由な経営が出来るが緊張感無きぬるま湯で退化してしまう一部懸念もというような旨も書いていた。

緊張感が無いといえば、今月は上記の大正製薬が“ステマ”で消費者庁から措置命令を受けているほか、また純利益が驚きの99.9%減という発表直後にMBOで今年上場廃止になったスノーピークもつい最近テント等の一部の耐水圧が表示していた数値に満たないとして45商品が販売停止に追い込まれている。いずれも立て続けに報道されたMBO企業だけに目についてしまったが、ブランドが浸透しているだけに非上場後も常に視られていることを忘れてはいけないか。


世相を表す返礼品

さて、先週末に横浜ではふるさとチョイスが開催する日本最大級のふるさと納税イベントである「ふるさとチョイス大感謝祭」が行われていた。昨年は約130の自治体が集まり1万4千人を超える参加者が来場したこのイベント、今年は更に北は北海道から南は沖縄まで過去最多となる159の自治体が集まり返礼品を存分に楽しめる催しとなった模様だ。

ちょうどこのイベントが開催されるこの年末の時期あたりからふるさと納税も佳境に入るが、物価高の影響で今年も返礼品選びにこの影響が出ている。別の大手ふるさと納税仲介サイトのランキングも過日発表されていたが、今年のベストテンには人気のホタテやフルーツに交じって昨年はランク外であったトイレットペーパーやボックスティッシュなどの日用品がランクインしていた。

他にも今年は“令和の米騒動”もあり同じくベストテン内には精米などもランクインしていたが、コメがスーパーなどの棚から消えた8月など米の返礼品狙いの寄付が前年比4~5倍に上った模様。8月といえば南海トラフ地震臨時情報もあり、この影響で防災グッズの返礼品も昨年比2.7倍に増加していた。防災といえば地震が発生した石川県への今年1月の寄付金額は前年同月比で46倍にのぼるなど被災した地域の返礼品もまた注目された。

斯様にその年に人気になったモノは或る意味時代の世相を表しているが、ふるさと納税の利用者は昨年1000万人を超え、その寄付額も年々増加し昨年は約1兆1175億円と遂に1兆円の大台を超えてきた。それに伴い返礼品競争過熱で本来の趣旨とは異なるとして総務省も近年規制を強化し来年には仲介サイトのポイント付与も禁止されるが、物価高のなか所得が上がらない向きも多いなかで今後も増加の一途を辿ってゆくのは想像に難くない。


ゴールドとデジタルゴールド

トランプ氏の大統領選勝利を受けたビットコインの騰勢止まらず、本日の前場には史上初めて一時9万ドルの大台を突破してきた。なにせ自身が運営に関わる金融プラットフォームまで立ち上げ、米をビットコイン大国にするとまで明言していただけに一連のトランプトレードでもその騰勢ぶりは群を抜いているが、日米が株価大暴落の憂き目に遭った8月には5万ドル台であったからその暴騰ぶりには目を見張るものがある。

ところでビットコインは別名で“デジタルゴールド”ともいわれているが、リアルのゴールド相場のほうはビットコインの暴騰とは逆に売り圧力が強まっており、つい先月末には2800ドル超と史上最高値を更新していたが昨晩は一時2か月ぶりに2600ドルを割るなど急落の憂き目に遭っている。そういったことで米ビットコインETFの資産規模も約840億ドルに達しており、既にゴールドETFの3分の2水準にまで迫ってきている。

この辺の背景にはドル指数が今年の高値水準106ポイント台に上昇、米長期金利の高止まりにドル高が逆風として効いていることがあるが、米10月CPI(消費者物価指数)如何でこのゴールドも弱気トレンドが継続されるのか否かというところ。下馬評ではインフレ鈍化が一服との見方も出ているが、内容如何で12月のFOMCでの利下げ観測にも影響してくるだけに先ずは今晩の米CPIに注目してみたい。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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