猛暑インフレ

過日に7月の消費者物価指数が発表されているが、依然とした高止まりで伸び率は3%を超えこれがかれこれ8か月連続となっていた。変動の大きい生鮮食品は含まれてはいないがこれらの伸びはひと際顕著で、今年の猛暑で野菜から食肉まで各種の生育不良が相次ぎ所謂“猛暑インフレ”の様相を呈している。

これら食品にとどまらず今月も引き続き多くの食品値上げが行われる。帝国データバンクによる主な食品メーカーにおける飲食料品の値上げは先月の1010品目に続いて今月は1422品目にのぼるが、値上げが前年を上回るのは9か月連続となり、単月の値上げ品目数としては4ヵ月連続で1000品目を超えている。

主な品目では調味料が427品目と最も多く、次いで冷凍食品などの加工食品が338品目、そしてオリーブオイル並みに価格が倍増しているチョコレートなど菓子が291品目と続くがこの猛暑の時期、ガリガリ君はじめピノやパルムにMOWから雪見だいふくまで皆に人気の需要が高い定番アイスもまたどれもこれも軒並み値上げとなる。

飲食料品の値上げは人件費に起因したものが一昨年は9%台だったものが昨年は26%超に、そして今年は50%を超えるとの予測が出ており、既に内部要因による物価上昇に起因したものにシフトしている。食品以外でも電気やガスは政府の補助金が減少し大手各社は値上げ予定、当の食料品も10月の値上げ予定品目数は今年の4月以来となる3000品目超えとなる見通しで、“食欲の秋”の到来が近いものの猛暑インフレと併せその食欲も減退しそうだ。


攻めのバランス

さて定期的に起きる広告モノの炎上騒ぎだが、今月もひと騒動が起きた。スイスの時計メーカー、スウォッチでモデルが目尻を両手で引き上げている画像を使った広告がそれで、これに対し同社が謝罪し全世界で関連素材を取り下げたもの。同社は収益の約3割を中国(香港・マカオ)から得ているというが、最近の不況や米関税騒動も加わりその株価も16年ぶりの安値に沈んできているなかでの騒動勃発だ。

ところで中国絡みで問題になるのはイタリア勢が多い覚えがある。中国向けに流した広告で中国系モデルが箸でイタリア料理を食べる様が馬鹿にしていると炎上、たった数時間でECサイトから製品が引き上げられ上海での大規模ファッションショーも中止され巨大マーケットを失った「ドルチェ&ガッバーナ」など記憶に新しいが、その1年後には「ヴェルサーチ」がTシャツデザインを巡って炎上、アンバサダーを務めていた中国系女優がモデルの契約解除を申し出ている。

このヴェルサーチの炎上と同じようなパターンでは、一昨年には「ブルガリ」が海外のウェブサイトで台湾を中国からの独立国のように扱っていると炎上してしまった件もあったなと。今回の冒頭の騒動でも早速スウォッチ製品のボイコットを求める声が広がったというが、伝統的?に中国の消費者は自分達の文化を侮辱されたり国益を脅かされたりしたと感じた際には不買運動を実施する傾向が強い。

こうした騒動があるたびに政府と国民が一体化し連動している踏み絵のような市場という事を思い知らされるが、そういえば今月は米アパレルのアメリカン・イーグル・アウトフィッターズのジーンズ広告も炎上騒ぎを起こしている。どれもこれもひと昔前なら“Cool!”の賞賛で片付いていた一寸攻めた広告も今や直ぐに炎上、不買運動に発展する何かこう世知辛い世の中になったとも感じるがこれも時代なのだろう。


静かに上場来高値

さて、週明けにはSBIによる金融資産のトークン化戦略を取り上げたがSBIといえばもう一つ、先月末には傘下のSBI新生銀行がかつての長銀時代の公的資金を完済したことが明らかにされ地銀業界の再編がいつ再始動するのか注目されていたところに、東証スタンダード市場の東北銀行に地銀としては約3年ぶりに出資する事が明らかになり、「第4のメガバンク構想」が再始動する旨が報じられている。

上記のようにトークン化戦略を打ち出すなど同社はデジタル金融の強味があるので、これは地銀にとっても新たな視野が開けることになる。これまで取り上げてきたように同グループではBaaS事業などの強みを活かし百貨店や大手家電メーカー等とコラボしてネオバンクサービスを展開してきたが、その辺の発展途上な伸びしろの部分にも今後は期待が出来るか。

そうした動きも背景に当の東北銀行はこの報道日まで3日続伸し年初来高値を更新してきているが、再来年に第四北越FGと経営統合で合意している群馬銀行も週明けにはザラバで1,593円まで上昇し1990年に付けたこれまでの上場来高値を実に35年ぶりに更新してきた。(まだ第二地銀に関しては楽観視できない部分もあるが、これまで最後の万年割安株といわれてきた地銀株は再編思惑で今後も眠りから覚める向きも出てくるか。


未知のマーケット

先週は米ニューヨークで日本アニメの祭典としては最大のイベントといわれる「アニメNYC」が開催され各地からの多くのアニメファンで会場がにぎわった。折しも来月から「鬼滅の刃」の新作が公開予定で既に大手チケット販売サイトでは前売り券の初日の売り上げがアニメ映画の最高記録を塗り替えるなどその期待が高まっているという。

斯様に世界的にアニメ市場が拡大するなか、コンテンツビジネスを軸に連携して成長に繋げたいとする動きは先にバンダイナムコHDの株式を取得表明したソニーGなど顕著だ。同社は今年1月にもKADOKAWAに約500億円を追加出資し筆頭株主になっているが、企業が保有するIPを配信基盤等を使って展開したりアニメの共同制作に力を入れるが、この株式取得で日本のコンテンツ大手による3社連合が誕生する。

またアニメ絡みではもう一つ、このアニメNYCが開催されていた時を同じくして横浜では首脳級国際会議の一つ「TICAD」(アフリカ開発会議)が開催されていたが、今回のTICADでは漫画・アニメの分野で日本企業が管理するIPをアフリカ企業がデジタル上で管理、全土に届けるなどの協業を目指す初めての覚書も交わされている。グローバルサウスマーケットは日本にとって伸びしろのあるマーケットだが、日本の基幹産業になってきたIPモノを内外共にどう展開してゆくのか今後も注目される。


トークン化戦略

さて、先週末にSBIホールディングスが金融資産をブロックチェーン上でデジタル資産の「トークン」として売買する新たな取引市場を作る旨が報じられている。シンガポール企業と共同開発して、これにより株式や債券から仮想通貨などあらゆる資産を一元的に取り扱い、SBIグループの6700万件の顧客基盤などに向けこれら現物資産を暗号資産として24時間、365日売買出来る取引所を提供するという。

ブロックチェーン技術は既にリーマンショックの頃に開発されているが、これまでの規制も整備されてきており米金融は先行している。こうしたことを背景に大手JPモルガンがドル預金トークンの試験運用を発表しており、オンライン証券大手のロビンフッドは欧州で株式トークンのサービスを開始している他、暗号資産取扱い大手コインベースもトークン化した株式の提供に向けSECに認可を申請している。

上記のロビンフッドの株価は既に年初から倍以上となっているが、このトークン化戦略が囃され今月に入ってからは更に一段高し上場来高値を更新してきている。いずれ上記のコインベースとも競合する事になろうが、今年の時点でトークン化される資産は6000億ドルといわれるが、ここから年間で5割のペースで増加し2033年には19兆ドルと30倍以上になるとの一部指摘もある。

SBIも米ロビンフッドのように多彩な新しいサービスを次々と打ち出してくれるかどうかだが、ロビンフッドは既に未上場株までラインナップしているのが凄い。本当は斯様な飛躍したサービスが個人受けするのだが、日本では規制面等でここまでの提供は難しいか。とはいえ国際間決済も瞬時に完了し国境や時間にとらわれない取引が叶うなど期待が出来るだけに今後の展開には注目しておきたい。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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