脱コングロマリット

さて当欄では東京メトロやキオクシアの上場など大型上場を取り上げてきたが、先週はこれらに続く大型モノのJX金属が東証プライム市場に上場している。ゆうちょ銀行の売り出しと重なるなかにあって公開価格は仮条件の上限で決まり市場からの資金吸収額が18年に上場したソフトバンク以来の大きさと注目されるなか、初値はその820円の公開価格に対して2.8%高となりその後も続伸してかつての親会社の株価を抜き好調なスタートを切っている。

JX金属といえば周知のようにこれまでENEOSホールディングスの100%子会社だったが、同社は祖業である銅の精錬事業から今では半導体材料企業として生まれ変わる方向へ舵を切っておりこれまでの金属と親会社の石油の両輪ではシナジー効果が無かったワケで、今回の上場は所謂コングロマリットディスカウントを解消し成長の機会をより確実にする意味でもいい独立事例ともいえるか。

この上場で親会社のENEOSホールディングスの連結対象からは外れ親子関係は解消する形となるが、ENEOSとしてもこれで3600億円超の売却資金が入るわけで既に同業のコスモ石も来月から本格生産するSAFやバイオ・合成燃料など次なる成長投資に充てることも可能になり、JX金属も石油から離れてこちらもまた成長事業投資で企業価値を高めてゆけるウィンウィンの構図が描ける。

折しも国内では半導体需要が広がるなか、本来持っていた強味を活かしてかつて世界を牽引した“日の丸半導体”の復活で再度日本が存在感を示すことを目指す動きも活発化してきている。同セクターの大規模上場の好調スタートはカンフル剤となり後続企業にとっても追い風となるだろうが、今後もこの手のコングロマリット解消からスピンオフの動きが増えてくることも予想されるか。


SDGs【12】

一昨日の日経紙、総合・経済面では「フードロス、損保も対策」と題し、三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損保保険が4月以降、食品の再販売などの費用を補償する保険を事業者向けに始める旨が出ていた。フードロスといえば消費者庁も先週には検討会を開いて食品の消費期限や賞味期限の設定を見直すガイドラインの改正案を取りまとめている。

この改正案では食品の特性に応じて科学的・合理的根拠があれば日数をなるべく長く設定するように事業者側に求めているが、消費期限や賞味期限については客観的指標に基づいて事業者側が設定しているものの、消費者庁は必要以上に期限を短く設定しているケースがあるとも指摘している。この辺はおそらく「安全係数」を指していると思われるが、目安よりもはるかに保守的な安全係数を掛けているケースが多いのが現状だ。

こうした賞味期限に絡んでは他にも流通の“3分の1ルール”などがよく知られたところだが、この辺も農水省が見直しを呼びかけている。この辺は既に日本乳業協会などが緩和に向けた働きかけに動いているが、大手企業もキューピーは主力のマヨネーズの消費期限の延長に動き、ニチレイフーズも今年に入って賞味期限の延長を発表するなど企業努力の動きが見られる。

他にも生産段階でロスを防ぐ取り組みやアップサイクルフードに取り組んでいる向きも数多あり上記以外の大手でも10年前年対比で今年には食品ロス総量を半分以上減らすという目標を掲げている向きも。食品ロス削減は日常の中でも身近なもので、SDGsの目標の中でも取り組みやすいテーマの一つだけに斯様な企業の取り組みと並行し我々も日々意識してゆかねばならない課題か。


3000ドルは通過点?

本日の日経紙グローバル市場面では「金高騰、予想引き上げ続々」と題し、金(ゴールド)が今月に初めて3000ドルの大台を突破した後もトランプ米政権や地政学リスク、中央銀行による買いなどを背景に主要金融機関が年内の価格予想の上方修正に動いている旨の記事があった。金ETFは過去4年間にわたり純流出が続いていたが、今年に入り純流入に転じているあたりも投資マネー流入の一端を示すものだ。

同紙では年内の価格予想を引き上げた金融機関とその理由が出ていたが、3000ドル突破後にいち早く3500ドルのシナリオも打ち出したマッコーリーなどは地政学リスクと共に財政赤字を挙げるが、トランプ政権を巡っては大規模な減税策に伴う財政問題も懸念されており財政赤字が拡大しドルの価値が下がるとの見方から価値が目減りしない金への注目度が上がるのもうなずける。

他にゴールドマン・サックスは冒頭のETF流入と並び中銀の買いを挙げていたが、この中央銀行の旺盛な買いも過去10年以上続いていて、22年以降は3年連続で年間1000トンを超えて昨年も上昇を牽引したのは中銀の買いが主因だった。中国の中央銀行など今年2月、4ヵ月連続で金保有を拡大させているが、こうした中銀買いは今年1月には約18トンを買い入れている。

中間選挙に向けて成果を急ぐトランプ大統領の予測不能な政策如何で一部の新興国など今後はいつ自国に経済制裁が下るかと戦々恐々の中にあって、外貨準備をドルから金にシフトさせる動きは自然な流れで斯様な動きが今後も価格に寄与し続けるのは想像に難くないか。


読売333指数始動

本日から読売新聞社が提供する株価指数「読売333」の算出が始まった。これは日本の株式市場から主要銘柄として選んだ333銘柄で構成される新しい株価指数で、初日の終値は35,507.74円であった。この指数だがその算出方法が最大の特長で、この読売333は「等ウェート型」を採用し各銘柄の値動きの比率を足し合わせたものを全銘柄の333で割る算出方法となり値動きの平均値を示すもの。

これにより大企業や特定企業の動向に左右されにくい点や、時価総額が小さくても成長性の高い銘柄の値動きを捉え易く中小型の伸びも取り込める点が特徴で、実際に東証プライム市場のみならずスタンダード市場やグロース市場の銘柄も含まれ地方企業や新興企業が含まれている事にも注目だ。こういった等ウェートを採用する株価指数は日本では初めてであると思うが、海外では既にS&P500イコール・ウェイト型指数などがある。

ちょうど直近では米市場全体を牽引してきた所謂“マグニフィセントセブン”はエヌビディア株の下落やテスラ株の往って来いなどが重なったこともあり高値からの下落率が先週には20%を超え弱気相場入りしている。時価総額加重平均型では上記のような主力の特定銘柄が与える影響が高くなるが、イコール・ウェイト型ならこうしたことを回避出来る。

この指数の始動で早速26日(水)には「eMAXIS Slim 国内株式(読売333)」が設定される予定で、これはNISAの成長投資枠の対象ファンドにもなっており信託報酬率も低めの設定になっている。目下のところ人気の矛先は付和雷同的にオルカンやS&P500一辺倒と喧伝されているが、斯様な新商品の登場も含め新たな指数の始動で日本企業への投資を見直すきっかけにもなる事も期待したい。


優待熱再び

今月初めの当欄で株主還元の流れを取り上げた際にトヨタ自動車が初めて株主優待制度を導入した旨も書いていたが、しばらく優待廃止の流れに傾いていたマーケットも昨年は優待新設企業数が131社にのぼり、5年ぶりに優待廃止企業数の85社を上回った旨が先週の日経紙に出ていた。東証による市場改革に加え、新NISAの導入で個人株主を取り込む思惑も背景にしてこの導入企業数も7年ぶりの多さとなっている。

株価の方も市場で突飛高する銘柄は優待拡充などのニュースが出た銘柄が最近は特に目に付く。直近では昨日にストップ高まで駆け上がったグロース市場のバリューゴルフは株主優待制度の拡充を発表しており、先週は株主優待の再導入を公表したプライム市場の学究社も急伸し上場来高値をも更新してきている。そういえば昨年は人気タルト店のチャージギフトを優待で導入し急騰した企業もあったのを思い出す。

個人投資家の重視項目では配当に次いで優待も大きな割合を占める結果が出ており、「株主優待利回り」に着目する向きも新NISA導入後は大きく増加してきている。私個人も様々な企業の優待を享受しているが、配当をはるかに上回る“美味しい企業”は意外に多いと実感している。また企業側としても配当に比べてコストがそれほどかからず株価の下支え効果も考慮すればコスパの良い施策ということがいえるか。

廃止企業も一定数あるのにみられる通りで株主間の平等性を厳密には確保できないという構図もあるものの、近年の政策保有株解消が進むなかで安定株主としての個人の確保もまた重要性を帯びてきている。3月期企業の権利確定も迫ってきているが、上記の新NISA導入後の個人投資家と企業側の思惑とがうまくマッチしているこの“高コスパ”の施策は今後また活発化してくるのは想像に難くないか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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