修正される本源的価値

本日の日経紙ビジネス面では「豊田織機 非公開化へ前進」と題し、昨日にトヨタ陣営がTOB価格を引き上げる意向を示したことで米の投資ファンド、エリオット・インベストメント・マネジメントの応募合意を取り付けた旨の記事があった。これまでトヨタ陣営側はTOB価格を引き上げない意向を公表していたものだったが、市場では先月から2万円大台での推移が定着し結局再度の修正に追い込まれた格好ともいえるか。

この豊田自動織機は昨年に何度か取り上げた事があったが、当初の16300円という数字が出た時に当欄では「現在のEPS実績が約16300円であるからちょうどPBR1倍水準といったところだが、これが本源的な企業価値なのかどうか~」と書いていたが、その後にエリオットが株を大量保有が判明しTOB価格を18800円へ引き上げた際にもトヨタ陣営は「本源的価値を反映した価格」として変更はないとの方針を発表していた。

これまでエリオットは豊田自動織機の価値の過小評価を訴えており株式価値は1株あたり26134円と言っていたが、こうしたアクティビストらによる株式取得の後に買い付け価格の引き上げを要請するパターンが近年は多い。この豊田自動織機の場合は2度の引き上げを余儀なくされたが、今年に入ってTOBが成立した太平洋工業も約半年を要し豊田自動織機と同じく2度のTOB価格引き上げを余儀なくされている。

また先月にTOBが成立したマンダムに至っては3回の引き上げを余儀なくされそのTOB価格の引き上げ率は実に60%に迫る勢いとなった。この豊田自動織機もわずか1か月でTOB価格の修正に追い込まれたわけだが、TOB価格が引き上げられればこの分のコスト増はMBO完了後に重くのしかかる。MBOを計画する企業はこれらと市場の対話との均衡点を測るのも課題となってくるか。


各社が上方修正

先週末の日経紙一面には「上場企業5年連続最高益」と題し、2026年3月期の上場企業の純利益はAI投資などの需要に加え非中核事業の売却など資本効率改革により5年連続で過去最高を更新する見通しとの記事が一面を飾っていたが、斯様な企業業績や高市政権の政策期待による海外投資家の資金流入も継続することが予想され証券各社や運用各社などが年末の日経平均株価の見通しを相次いで引き上げている。

いずれも先週から今週にかけて従来予想からの引き上げが為されているが、この辺は昨日の日経紙にも出ておりザッと国内大手では野村が従来予想から4000円の引き上げ、外資系ではBofA証券が同5500円の引き上げ、UBSは更に大きく同8000円の引き上げ、また国内運用大手では大和アセットが7000円の引き上げ、三井住友DSアセットも7000円の引き上げといった具合だ。

これでこれら挙げた各社は全て6万円の大台に乗った格好だが、本日も日経平均は3日続伸し早くも6万円大台が指呼の間となっている。これらの基準にもなる「EPS」だが、TOPIXの26年度のそれは各社共に10~15%の増益を見込んでおりざっくり3090円台~3200円台というところだが、後は年明けの当欄でも書いたようにこれらから「バリュエーション」をどこまで許容できるかだ。

PERで試算すれば長年壁と言われていた20倍の場合10%増益で約61900円、15%増益なら約64700円となり冒頭各社の新予想の水準になってくるが、足元でPERはコロナ禍の異常値を除きアベノミクス相場序盤を超えてきている。ここから一段の上方修正を目指すにはROEの向上など併せて不可欠となってくるだけに期待値が実勢となってくるかどうか今後の各種指標に注目である。


問われるガバナンス

昨日の日経紙夕刊にはAIを活用した法務業務の効率化を手掛けるリーガルオンテクノロジーズが、大和アセットマネジメントと共同でAIを活用してインサイダー情報を検知するシステムの開発を始めた旨の記事があったが、そういえば本日は証券取引等監視委員会がみずほ証券社員らの関係先をインサイダー取引容疑で強制調査した旨の記事が日経朝刊の一面を飾っていた。

インサイダー取引といえば忘れた頃にポツンポツンと挙げられるイメージだったが、今年はつい先月も三田証券の元幹部がインサイダー取引容疑で逮捕された事件があったばかり。三田の件は投資銀行本部長職時代にニデックによる牧野フライス製作所に対するTOB情報を元に公表前の株式を買い付けたものだったが、上記のみずほ証券社員も同じく投資銀行部門に所属していたという。

上記2件に限らずここ数年はその辺の一般人が運悪く見つかってしまう“川下”のケースよりも“川上”の金融業界の摘発が多く、さらに遡れば三井住友銀行の証券代行部門から胴元?の東京証券取引所に更にその市場を監督する金融庁からもTOB情報を利用したインサイダー取引で有罪判決が出るなど異例ともいえる事件が近年では起きている。

TOB案件では上場企業が破綻して株価が下がるのと同じくらいの確率でその株価は上昇するのでこの誘惑に負ける輩が出てくるわけだが、昨年も書いたように一昔前のインサイダー取引では企業破綻や苦し紛れの巨額増資に絡む“売りインサイダー”が主流だったが、今は資本効率に絡むM&AのTOBでの“買いインサイダー”が目立つ。そう考えると犯罪からも近年の市場改革の進展が垣間見えるというまこと皮肉な事例ともいえるか。


ティッカーシンボル「PAYP」

先週末にソフトバンクG傘下のスマホ決済大手のPeyPeyが来月にも米ナスダック市場に上場する旨が各所で報じられている。ソフトバンクG側の売り出し保有株式は10%程度を予定している模様だが、想定される時価総額は3兆円を超える見通しという。PeyPeyはこれに先駆けて米クレジットカード大手のビザとの提携を発表しているが、日本で成功したモデルが輸出?される格好に。

このPeyPey、日本国内のスマホ決済のシェアでは約7割を誇っているが、この手の決済市場でペイパルなどの大手が君臨する米市場へ上場を目指すことでデジタルインフラへの脱皮を狙う。しかしコロナ禍の頃から機関投資家が評価し易い環境が整備されている米市場に上場する日本企業が相次いでいるが、このPeyPeyのような成長性の高い有力企業が東証を素通りして米市場へ直接上場する様を見るになかなか複雑な思いも出てくるものだ。

PeyPeyユーザーが海外渡航先でもこの対応店舗で決済できるよう支払方法の拡充など為されれば一層利便性が高まるというものだが、ソフトバンクGといえば過日は多額の出資をしている米オープンAIも今年はIPOを計画しているという報道もあった。上場がかなえば抱える“金の卵”の価値がどのくらいなのか定量的に把握出来るようになることで株価含め同社を取り巻くまた違った景色が見えてくるようになるか。


乱高下のFMH株

さて、昨年の春からフジ・メディア・ホールディングスへの圧力を段階的に強めていた村上氏であったが、節分の昨日に不動産事業の再編検討と大規模自社株買いを発表した。同社が予てより要望のあった村上氏側の要求をほぼ汲んだかっこうとなり、これによりこの自社株買いに応じて保有していた同社株を手放す方向に。これでかれこれ1年近くに及んだ村上氏側との攻防は手打ちとなり一先ずは収束に向かうという形になる。

ここまでアクティビスト勢と対峙するなかでフジ側は「有事導入型買収防衛策」導入の決議をしたり提案に対する具体策を発表しないままなんとか凌いで?やってきたわけだが、一連の流れで村上氏側含むアクティビスト勢が議決権株式の3割超を持つに至り今回の大幅譲歩の流れになったか。様々な思惑から本日の同社株は年初来高値を更新するもそこから10%以上も売られその後急速に戻すなど乱高下の一日であった。

今日の株価乱高下には資本有効活用進展の期待がかかるものの、成長の柱に据えるとしたメディア・コンテンツを今後どうしてゆくか施策の出されないところへの不透明感も滲み出る。将来性の思惑で今後も株価は思惑含みになりそうだが、村上氏系では昨日提出の大量保有報告書で東証プライム上場のレンゴー株を5%以上保有していることが明らかになっておりこれら含め関連株には今後も注目しておきたい。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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