総会前哨戦

先週は12月期決算の上場企業の定時株主総会がピークであった。総会といえばもう近年は株主提案が切っても切れないが、今年のそれは3月の総会としては前年から1割増加し過去最多の33議案の株主提案が機関投資家からあった。とはいうものの大半は結果として否決が相次ぐが賛成比率が3割程度に達する提案も中には散見され、6月の総会を前にこの前哨戦もなかなか緊張感のあるものとなってきている。

アクティビストが大株主の企業は毎度の如く注目されるが、昨年に37期連続増配を発表した花王に社外取締役選任の提案を求めていたオアシス・マネジメントは小林製薬に対し社外取締役を取締役会議長とするための定款変更等を株主提案していた。この提案ははたして否決となっていたが、斯様に近年の提案内容はかつての株主還元一辺倒から斯様なガバナンス関連の議案比率の高まりが顕著だ。

株主提案といえば昨日の日経紙には「個人株主もモノを言う」と題し、アクティビストなどの株主提案に個人の過半が賛同している調査があるなど個人株主もアクティビストに変貌してきた旨の記事が一面を飾っていた。上場企業の株式持ち合い解消の受け皿として安定株主としての個人株主の開拓を株式分割含め進めた結果その数も急拡大している証左ともいえるか。

そういえばこの株式分割も個人株主獲得のため近年では大幅分割をやってのける企業も少なくないが、現行の要件が従前の適用としていることで上記の個人株主がアクティビストに変貌という“例え話”ではなく、実際に個人株主が提案を出せるハードルも大きく下がってきている。物言わぬ株主も大きく変化しているなか6月の株主総会もそういった目線で注意深く見ておきたいところだ。


PayPay上場

先週末にスマートフォン決済大手のPayPayが米ナスダック市場に新規上場している。中東情勢の緊迫を背景にして仮条件の下限を下回る公募価格に決まったわけだが、そんな悪環境下でもこの公募価格を割れること無く初値形成しこれを13.5%上回る価格で引けた。とはいえ時価総額は2月にこれを取り上げた時の想定時価総額3兆円超には及ばず、約1兆円減の約1兆9000億円となった。

このPayPay、現在の利用者は7300万人にのぼるわけだが、先にクレカ大手のビザと提携し米でのタッチ決済とQRコード決済双方に対応したデジタルウォーレットの展開を検討している。現在米でのキャッシユレス決済比率は約86%、これが2027年までに94%に伸びると推測されているが、内訳はクレカがダントツでそれにタッチ決済がシェアを獲得しているなかでここからどの程度牙城を崩してゆけるかだろうか。

ともあれこのIPOでPayPayは9億ドル近くの資金を調達したわけだが、仮に東証だったらこの金額が調達出来たか否かで、ナスダックを選んだ背景には2月に当欄でも少し書いたように、機関投資家が評価し易い環境が整備されているハイテク企業が多く集まるナスダック市場の方がフィンテック企業としての将来性で高い評価を得られバリエーションを最大化できるとの判断があるという。

ちなみに米でこの業界のガリバーとして君臨するペイパルの時価総額は408.4億ドル、また決済サービスのスクエアなどを運営するブロックのそれは358.9億ドル、今後PayPayがこれら大手にどれだけ攻勢をかけられるかが焦点だが、先ずは2028年のロスオリンピックなどを見据えてどの程度アウトバウンドを取り込めるかどうかというところに懸かっているか。


修正される本源的価値

本日の日経紙ビジネス面では「豊田織機 非公開化へ前進」と題し、昨日にトヨタ陣営がTOB価格を引き上げる意向を示したことで米の投資ファンド、エリオット・インベストメント・マネジメントの応募合意を取り付けた旨の記事があった。これまでトヨタ陣営側はTOB価格を引き上げない意向を公表していたものだったが、市場では先月から2万円大台での推移が定着し結局再度の修正に追い込まれた格好ともいえるか。

この豊田自動織機は昨年に何度か取り上げた事があったが、当初の16300円という数字が出た時に当欄では「現在のEPS実績が約16300円であるからちょうどPBR1倍水準といったところだが、これが本源的な企業価値なのかどうか~」と書いていたが、その後にエリオットが株を大量保有が判明しTOB価格を18800円へ引き上げた際にもトヨタ陣営は「本源的価値を反映した価格」として変更はないとの方針を発表していた。

これまでエリオットは豊田自動織機の価値の過小評価を訴えており株式価値は1株あたり26134円と言っていたが、こうしたアクティビストらによる株式取得の後に買い付け価格の引き上げを要請するパターンが近年は多い。この豊田自動織機の場合は2度の引き上げを余儀なくされたが、今年に入ってTOBが成立した太平洋工業も約半年を要し豊田自動織機と同じく2度のTOB価格引き上げを余儀なくされている。

また先月にTOBが成立したマンダムに至っては3回の引き上げを余儀なくされそのTOB価格の引き上げ率は実に60%に迫る勢いとなった。この豊田自動織機もわずか1か月でTOB価格の修正に追い込まれたわけだが、TOB価格が引き上げられればこの分のコスト増はMBO完了後に重くのしかかる。MBOを計画する企業はこれらと市場の対話との均衡点を測るのも課題となってくるか。


各社が上方修正

先週末の日経紙一面には「上場企業5年連続最高益」と題し、2026年3月期の上場企業の純利益はAI投資などの需要に加え非中核事業の売却など資本効率改革により5年連続で過去最高を更新する見通しとの記事が一面を飾っていたが、斯様な企業業績や高市政権の政策期待による海外投資家の資金流入も継続することが予想され証券各社や運用各社などが年末の日経平均株価の見通しを相次いで引き上げている。

いずれも先週から今週にかけて従来予想からの引き上げが為されているが、この辺は昨日の日経紙にも出ておりザッと国内大手では野村が従来予想から4000円の引き上げ、外資系ではBofA証券が同5500円の引き上げ、UBSは更に大きく同8000円の引き上げ、また国内運用大手では大和アセットが7000円の引き上げ、三井住友DSアセットも7000円の引き上げといった具合だ。

これでこれら挙げた各社は全て6万円の大台に乗った格好だが、本日も日経平均は3日続伸し早くも6万円大台が指呼の間となっている。これらの基準にもなる「EPS」だが、TOPIXの26年度のそれは各社共に10~15%の増益を見込んでおりざっくり3090円台~3200円台というところだが、後は年明けの当欄でも書いたようにこれらから「バリュエーション」をどこまで許容できるかだ。

PERで試算すれば長年壁と言われていた20倍の場合10%増益で約61900円、15%増益なら約64700円となり冒頭各社の新予想の水準になってくるが、足元でPERはコロナ禍の異常値を除きアベノミクス相場序盤を超えてきている。ここから一段の上方修正を目指すにはROEの向上など併せて不可欠となってくるだけに期待値が実勢となってくるかどうか今後の各種指標に注目である。


問われるガバナンス

昨日の日経紙夕刊にはAIを活用した法務業務の効率化を手掛けるリーガルオンテクノロジーズが、大和アセットマネジメントと共同でAIを活用してインサイダー情報を検知するシステムの開発を始めた旨の記事があったが、そういえば本日は証券取引等監視委員会がみずほ証券社員らの関係先をインサイダー取引容疑で強制調査した旨の記事が日経朝刊の一面を飾っていた。

インサイダー取引といえば忘れた頃にポツンポツンと挙げられるイメージだったが、今年はつい先月も三田証券の元幹部がインサイダー取引容疑で逮捕された事件があったばかり。三田の件は投資銀行本部長職時代にニデックによる牧野フライス製作所に対するTOB情報を元に公表前の株式を買い付けたものだったが、上記のみずほ証券社員も同じく投資銀行部門に所属していたという。

上記2件に限らずここ数年はその辺の一般人が運悪く見つかってしまう“川下”のケースよりも“川上”の金融業界の摘発が多く、さらに遡れば三井住友銀行の証券代行部門から胴元?の東京証券取引所に更にその市場を監督する金融庁からもTOB情報を利用したインサイダー取引で有罪判決が出るなど異例ともいえる事件が近年では起きている。

TOB案件では上場企業が破綻して株価が下がるのと同じくらいの確率でその株価は上昇するのでこの誘惑に負ける輩が出てくるわけだが、昨年も書いたように一昔前のインサイダー取引では企業破綻や苦し紛れの巨額増資に絡む“売りインサイダー”が主流だったが、今は資本効率に絡むM&AのTOBでの“買いインサイダー”が目立つ。そう考えると犯罪からも近年の市場改革の進展が垣間見えるというまこと皮肉な事例ともいえるか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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