非上場化という選択

周知のように先週はセブン&アイHDが創業家の資産管理会社から買収提案を受けたとの発表をしている。創業家側はMBOの実施に向けて既に3メガバンクなどに具体的な資金調達の手法などについて打診しているとみられるが、このセブン&アイといえば当欄でも触れていたようにカナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けているおりその対抗策との意味合いが強いか。

ただ足元での実質企業価値を上回る資金を3メガバンクから調達しようと思えば金融機関に対しそれなりにMBO後も企業価値が上げられることの明確な説明が必要で彼らがそれを受け入れるかどうか、またこれら3メガバンク以外でもかつて米セブンとの契約において仲人役を務めた伊藤忠商事にも出資を打診している模様だが、周知のように同社はファミマを子会社にしている。

その先にはコンビニ大手同士の協業が進む可能性も無きにしも非ずだがこれらいずれも現時点では全く不透明。というわけでこのMBOが叶うか否かは別として近年MBOが目立つ。ちょうど昨年の今頃はシダックスやベネッセホールディングス、大正製薬などの大型MBOで沸いたのを思い出すが、当時の当欄ではMBOはアクティビスト等の株主から解放され自由な経営が出来るが緊張感無きぬるま湯で退化してしまう一部懸念もというような旨も書いていた。

緊張感が無いといえば、今月は上記の大正製薬が“ステマ”で消費者庁から措置命令を受けているほか、また純利益が驚きの99.9%減という発表直後にMBOで今年上場廃止になったスノーピークもつい最近テント等の一部の耐水圧が表示していた数値に満たないとして45商品が販売停止に追い込まれている。いずれも立て続けに報道されたMBO企業だけに目についてしまったが、ブランドが浸透しているだけに非上場後も常に視られていることを忘れてはいけないか。


オルカン除外

さて、先週末の日経紙グローバル市場面には株価指数算出大手の米MSCIが代表的な全世界株指数ACWI(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス)から日本株を7銘柄減らすと発表した旨の記事があった。今月25日の取引終了時点から反映されるものだが、MSCIは周知のようにグローバル投資家が運用成績のベンチマークとして使用する代表的なインデックスでその定期見直しは年4回実施されている。

このオルカン、前回の8月には新規採用が1銘柄にとどまり除外された銘柄は6銘柄であったが、その前の5月は新規採用が8月同様に1銘柄であったが除外された銘柄は15銘柄にも及んだ経緯がある。上記の通り同指数に連動するパッシブ運用資金が巨額なだけに、今回採用されたフジクラが発表後の取引開始直後に急騰したように個別銘柄の需給に与える影響は決して少なくない。

日本株は約30年前の95年には約25%の組み入れ比率であったが、15銘柄が除外された5月時点では実に5%と5分の1にまで減少している。このまま除外が続くようであれば海外勢の日本株離れの一因にもなりかねないだけに歯止めをかけたいところだが、MSCIはドルベースなので期待を集めそうな企業でも昨今のようなドル円相場のなか大型・中型の要件から外れ易くなるのに抗する事も出来ず、こういったところでも行き過ぎる円安は厄介なところでもある。


感慨深い上場 

先月に東証プライム市場に上場した東京地下鉄だが、先週から有楽町線および南北線の延伸プロジェクトの工事に着手している。また先週末には上場後初めての発表となる同社の2024年の9月中間連結決算も出ているが、コロナ禍後の経済活動回復を背景に旅客運輸収入が増加し純利益は前年同期比26.6%増の306億9900万円となっていた。

この東京メトロ、18年のソフトバンク以来の大型上場となったが抜群の知名度を背景に上場初日は公開価格を35.8%上回る1630円の初値を付けた後1739円で取引を終え、大引ベースでその時価総額は1兆103億円と1兆円の大台を超えて来た。上場直後の熱狂も落ち着き先週末終値はほぼ初値まで降りてきたが、他の私鉄を約2倍近く上回る営業収益率を背景に依然PERはプライム市場平均を上回っている。

ところで政府売出株といえば同じ鉄道系で2016年のJR九州があるが、同社は上場後に同じ政府系売り出し株の日本郵政と共に一時低迷したものの、鉄道事業以外の成長戦略が奏功し先月には上場来高値を更新してきている。そういった点からすると東京メトロは営業収益の約9割が鉄道事業に依存しているのが課題に映るがこの辺は今後の成長戦略に注目というところか。

しかしかつての営団地下鉄もようやくはれて上場かとなんとも感慨深いものがあるが、これで冒頭の通り約1兆円規模の時価総額企業が新たに東証に加わった。これまで日本株式のネックは時価総額一つ取っても米などと比較すればその規模が見劣りするのが課題であったが、今年はまだキオクシアホールディングスや非鉄大手JX金属の大型上場も見込まれているだけこうした部分の拡大に寄与する点では期待したいところ。


東証の取引時間延長

周知のように今週から東京証券取引所は現物株取引の終了時間を午後3時から午後3時30分に伸ばしている。きっかけとなったのは2020年10月に発生した大規模システム障害で、この日は全銘柄の売買が終日出来ず投資家の取引機会が奪われた反省から障害時に少しでも取引時間を確保出来るようにしたものだが、この延長は実に1954年以来70年ぶりのこととなる。

これに伴いこれまで延長反対の背景の一つでもあった証券など関係各社の業務負担も増加しようが、企業側もまた決算発表などの対応が変わって来る。東証側は延長に合せて発表時刻も30分遅らせることなく前倒しを要請しているが、これに従い発表時刻を早める企業あれば、これとは逆に発表時刻を30分遅らせる企業ありとその対応は企業ごとで異なっており各社で賛否両論喧しい。

そうした意味で今後はその開示姿勢の変化も問われそうだが、投資家側もまたこの変更ではクロージング・オークションなるものが導入された。引け5分前にザラバ取引が終了、以降売買注文を受け付け引けの板寄せで大引けが決定する。初日で幾つか銘柄を見てみたが15時を過ぎてなお刻々と約定してゆく様は何か不思議な感も覚えた。

しかしこの延長論、叶ってみれば30分という小幅な延長に落ち着いたが、延長といえばNY証取もつい最近6時間の取引時間延長計画を発表している。此処はこれまでも時間外を除く取引可能時間が6.5時間で、他の主要取引所をみてもロンドンは8.5時間、アジアではシンガポールが7時間、お隣韓国は6.5時間と海外と比べるに見劣り感は否めない。まだ走り出したばかりでその効果は未知数だが、海外勢の呼び込みにはもう一段の延長見直しも迫られそうだ。


お墨付き

本日の日経紙ビジネス面では「買収宣告は突然 低迷企業の脱皮」と題し、2021年のニデックによる工作機械メーカー、TAKISAWAへの同意なき買収提案の軌跡をたどる記事があった。8月にはクシュタールによるセブン&アイHDへの買収提案を書いたが、日本企業への「同意なき買収」の事例は14年からの約10年で計29件あり、24年は9月末時点で2件起きている。

“同意なき”なる言葉は今年改正された性犯罪に関する刑法でも使われるなど、これまで日本では相手の同意が無いケースは企業買収においても非常にネガティブなイメージで受け止められてきたものだが、こういった風潮を背景に生産性を向上させるような買収でさえ円滑に進まず企業買収の活発な欧米などに比べて日本企業の時価総額など現状総じて低いのが課題であった。

こうした事態を重く見た経産省は昨年の8月に企業が買収提案を受けた際、企業価値向上につながる真摯な提案を理由なく拒んではならない旨の「企業買収における行動指針」を策定、いわばこれがお墨付きを与える格好になり以降件数は右肩上がりに増えている。東証の資本コストな株価を意識した経営の実現に向けての改善要請と歩調を合わせた経産省の行動指針策定で日本の企業文化も変わりつつあり、そうした意味でも今後の買収事例に注目しておきたい。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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