株主総会2025

今年の株主総会も先週にはピークを迎えたが、先週は特にフジHDや日産、大日本印刷などアクティビストが大株主となっている注目企業の総会が多く開催された。度々各紙でも報じられているが今年はアクティビストによる株主提案を付議された企業は52社と2年連続で過去最高を更新、また議案数も137議案とこちらは3年ぶりに過去最高を更新している。

さてその内容だが、注目されているところでは昨日に開催された冒頭のフジHDは米ダルトン・インベストメンツから12人の取締役の選任案を提出されており、先週開催された太陽HDに対しては香港のオアシスマ・ネジメントが社長を含む取締役2人の解任が提案されていた。フジHDの方は提案された新取締役候補12人が否決されたが、太陽HDの方は総会では異例の事態となる社長の再任案が否決される一幕があった。

ここ数年見ていると主要どころへの株主提案のテーマは昨年や一昨年など増配や自社株買いなど株主還元の類が全体の半数を占めていたものであったが、今年は上記の2社や直近のマネックス・アクティビスト・ファンドが出した大日本印刷への株主提案もそうであったように取締役選任案などどちらかというとガバナンス関連の議案比率が高まっているようにも感じる。

昨年は複数のアクティビストから圧力?を受け、首をかしげるほどの大幅増配を発表し急騰した企業の株を新取締役まで送り込む事に成功したアクティビストがきれいに売り抜けたケースも見られたが、そう考えると今年のそれは短期目線というよりもより中長期目線で成長戦略の具体化など経営力向上を意識した提案割合の高まりを感じる株主総会であった。


“売り”から“買い”傾向に

さて、先週は東証プライム市場に上場している化粧品サイト運営会社「アイスタイル」の業務資本提携を巡るインサイダー取引をしたとして、コンサルタント業の男が東京地検特捜部に金融商品取引法違反容疑で逮捕された報があった。この手の事件といえば昨年は胴元の東証社員や、金融庁に出向中の裁判官まで同容疑で挙げられるという前代未聞の事件が記憶に新しいところ。

ところでこのインサイダー取引といえば、金融庁はTOBを巡るインサイダー取引事件の増加を受け違反した場合の課徴金に関し不正に得た利益に一定の係数を掛け合わせるなどで欧米の水準に近づけるなどこれを17年ぶりに見直す旨が先週の日経紙一面でも報じられている。この辺に関しては2007年ごろの当欄では課徴金を払ってなお利益が手元に残る“やり得”状態と書いていたがあれから20年近く、漸く“やり損”の構図となるか。

しかしインサイダーといえばひと昔前は証券取引等監視委員会も手薄で、その手の情報伝播も今よりはるかに緩かったものだ。それこそ兜町界隈の一部OLクラスでも何故か筒抜けだったこともあったし、夜に舞台を移せば同伴やアフターの場でその手の情報が飛び交っていた光景を思い出す。そう考えると今は末端より川上に近い向きが手を染め摘発されてしまうケースが多くなったと感じる。

もう一つ、日経紙では昨今の東証による資本効率改善要求などを背景にTOB案件に乗る“買い”の事例が多く挙げられるが、ひと昔前のインサイダー取引といえば買いよりも巨額増資や企業破綻などに乗る“売り”目線のインサイダー取引が横行していた感がある。なので確信犯のカラ売りが嵩み逆日歩も超高額になり後半に乗った連中は破綻しても持ち出しになってしまう笑えない事例もあったものだ。まあそう考えるとこうした禁断の“買い”案件の増加も時代を感じざるを得ない。


ビットコインに賭ける企業

さて、2024年11月の米大統領選以降は米ストラテジー社(旧マイクロストレテジー)などを筆頭に企業がビットコイン投資に賭ける動きが加速しているが、直近ではCB発行後の5月下旬にビットコインを購入したミーム株で有名なゲーム販売の米ゲームストップが新株予約券付社債を発行するとの報に、またもビットコインを購入するのではとの思惑が嫌気され同社株が大きく下落する場面も見られている。

ちなみに米ストラテジー社は今月も10万ドル台で約160億円相当ビットコインを更に買い増ししており、これで同社が保有するビットコインはビットコイン総供給量の3%近くにもなる58万ビットコインを超え、日本円にして実に9兆円を超えてきている。もはやビットコインそのものともいえるが、欧州勢でもビットコイン関連企業であるザ・ブロックチェーンGもビットコイン取得拡大のためファイナンスを行うと発表している。

では日本企業はどうか?当欄で先月に取り上げた東証スタンダード市場のメタプラネットは取り上げ後に3日連続でストップ高を演じたが、今週はじめにビットコインの追加購入を明らかにしたことでまたも株価が反応、本日も年初来高値を更新し先月末比で80%高と破竹の勢いを演じ、同時に取り上げていたリミックスポイントも今週はこれに連れ高し先月末比で一時40%高と急騰した。

メタプラネットの時価総額は4月安値では1500億円にも満たなかったものが、本日段階でプライム上場の日清食品や住友林業をも抜いており、年初来高値局面では1兆円倶楽部も指呼の間の水準に化けている。まさにビットコイン並みだが、そのビットコイン保有額に対しこの時価総額が妥当かどうか賛否も分かれよう。今後もフルベットな企業はビットコイン価格に一喜一憂の展開となろうが、オルタナティブとしての賞味期限にも注意しておきたいところ。


米IPO復調

先月末にBIS(国際決済銀行)が公表したリポートでは米国債の買い手として法定通貨等に価値が連動するステーブルコインの発行企業が存在感を強めている旨が明らかになっているが、このステーブルコインといえば今月は5日に発行大手のサークル・インターネット・グループがIPOをはたし公開価格に対し上場初日は168%高で取引終了し、その後4営業日では3.4倍に上昇するなどロケットスタートとなっている。

また、サークルの後に上場した防衛・宇宙事業を手掛ける米ボイジャー・テクノロジーズの初値は公開価格比で約2.3倍に急騰、初日は公開価格を82%上回る水準で取引を終え、この翌日には米新興フィンテック企業のチャイムファイナンシャルがナスダック市場に新規上場し公開価格37ドルに対し初値は43ドル、一時高値は66%高の44ドル94セントまで上昇するなどいずれも好調だ。

これらIPO復調の背景には米関税政策の先行き不透明感の後退が挙げられているが、そうなるとこの関税政策を嫌気し市場が急落した影響でIPO延期検討に入っているフィンテック決済大手のクラーナや、チケット再販を手掛けるスタブハブなどには再度期待が高まろうというもので、今後もこれらの動向には注目しておきたいところ。


経営陣の自信

トランプ関税やひところに比べた円高などが重荷となり拡大していた東証プライム市場の企業業績も2026年3月期の純利益合計は前期比7%減と6年ぶりの減益が見込まれる旨が先の日経紙に載っていたが、そういった中においても上場企業の自社株買いが2025年1~5月は約12兆円と前年同期比で2割増え、同時期としては最高となった旨が先週の同紙に出ていた。

背景の一部には3月期決算のプライム上場企業の手元資金が、3月末に112兆円と2008年3月期以降では3番目の高水準にあるなど財務に余力があることも指摘されている。確かに最近の自社株買いの規模は対時価総額比でも5%を超える企業も珍しくなくなり、本日に上場来高値を更新してきたSANKYOやアイシンなどは9%台、クシュタールの買収攻勢に揺れたセブン&アイHDやワコールHDなどに至っては実にこれが10%超えの規模となっている。

先週に東証から発表された売買動向では、6月第1週に海外勢の日本株買いは売りを上回り1000億円を超える大幅買い越しの連続記録は10週に及んでおり、こうした海外勢の連続買い越しは23年6月以来、2年ぶりの長さとなっている。先月の売買動向を取り上げた際にも書いたが、こうした背景には上記のような想定以上の自社株買いがポジティブ視されている事も大きいか。

そういった一方で、中にはアクティビストの要求に屈して?成長投資より自社株買いを優先している向きもあるなどの指摘もある。この辺は現段階での予想値でもこの自社株買いと配当などの増加でこれらを合せた総還元性向としては70%近くまで上がることが想定されており、株主に対して経営陣の自信を伝えるメッセージとしては十分だろうが、今後は成長投資とのバランスも課題になって来ようか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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