黄金株浮上

先月末にペンシルベニア州にあるUSスチールの製鉄所にてトランプ米大統領は鉄鋼の輸入関税を25%から50%に引き上げると表明している。またもやれやれという感じだが、演説を行ったこのUSスチールといえば日本製鉄による買収交渉は約140億ドルの追加投資を表明するなど大詰めを迎えてはいるものの、日本製鉄が求める完全買収という形で決着するのかどうかいまだ予断を許さない状況となっている。

ところでこの買収案件に絡んでは先月にこのペンシルベニア州選出の上院議員が政府による「黄金株」の関与を仄めかしている。なんとも久し振りに聞いた言葉だが、1株の保有で経営上の重要な決議に拒否権を発動出来る特別な株式。国の安全保障上ふさわしくないと思われる時、この黄金株を創業者や国家が持つことで合意無き買収を避ける効力を発するもの。

ちなみに日本の株式市場でこの黄金株を発行している企業としてはかつての「国際石油開発帝石」がある。現在東証プライム市場に上場する「INPEX」だが、此処はエネルギー安定供給の観点からこの黄金株を経産省が所有している。米政府が黄金株を持つ事で買収となるも米政府が安全保障上のコントロールを握り、完全買収に難色を示していたトランプ氏の面子も辛うじて保てる究極の策とも取れる。

そう考えると成る程いま考えられるベストなシナリオとも思えなくもないが、いずれにせよ買収が叶えば高品質鋼材を武器に需要超過の巨大な米市場への参入、生産コスト削減に安定御供給やサプライチェーン強化等々メリットは計り知れない。当の日本製鉄は明後日の5日までに決着させたいとしているがなんとか良い決着が望まれるところだ。


ROE目標再び

週明けには暗号資産関連の投機株乱舞の様子を書いたが、これらと同時期の個別物色では「サンリオ」や「ソニーG」など高ROEを誇っている株もまた物色対象になっていた。ROEに絡んでは先の「京成電鉄」が発表した中期経営計画では初めてROEの目標を示したのが話題になっていたが、同社の大株主である英ファンドのパリサー・キャピタルがROE目標について言及していたのも背景ともみられている。

その京成電が掲げたROE目標は8%以上を目指すとのことだが、上記のソニーGのROEは14%超、サンリオのROEに至っては48%超と他を圧倒する数字で物色されるのも納得だが、ちなみにこのサンリオは株価算出大手の米MSCIの全世界株価指数「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」に、日本株からIHIと共に追加対象として選ばれ月末から反映される。

一部大手証券によれば3月の本決算企業の24年度決算発表を経てTOPIX構成企業で24年度のROEが10%以上の企業の割合は42.2%と前年の38.3%から高まっているというものの、TOPIXのROEは2023年の9.0%から昨年は8.8%へと低下しこれで3年連続で10%に届かなかったという。そういったことで今後も総還元性向含めこれらの嵩上げにどういった施策を講じるのか各社の舵取りが注目されるところ。


背中を押す物言う株主

本日の日経紙ビジネス面では「メガ・ドラッグへ前進」と題し、当欄でも何度か取り上げた「ツルハHD」とイオン子会社の「ウエルシアHD」の経営統合案が、昨日のツルハHDの定時株主総会で可決された旨の記事があった。これでこれまで業界売り上げのトップスリーが1兆円規模の横並びだったところへ一気に2兆円規模のガリバー級が登場する構図が一歩前進した格好になる。

思えば一昨年のツルハHDの株主総会では1991年3月期以降、実に36期連続増配を実施している優等生である「花王」に対して物申しているあの香港のオアシスマネジメントが、同社に対して社外取締役の選任等を求める株主提案を出して全て否決された経緯がある。そのオアシスからイオンが1000億円規模でツルハHD株を取得したところから経営統合協議が始まった。

とはいえこの時の取得価格を巡り今度はツルハHDに25年余りにわたってホルダーとなっている英系のオービス・インベストメンツが統合案に反対を表明している。まだまだ物言う株主の提案否決は目立つものの、彼らの一連の活動が再編劇等で重い腰を上げさせる圧力として作用しているのは否めない。昨年は世界のアクティビストの提案や要求が過去最多を記録したというが、今年も株主総会での各々の動向から目が離せない。


3日連続ストップ高!

当欄で15日に「オルタナティブ資産のオルタナティブ」と題して書いていた東証スタンダード市場の「メタプラネット」株に、同じくスタンダード市場の「リミックスポイント」株が先週に破竹の勢いを演じた。取り上げた当日のメタプラネットは前日比15円安、リミックスポイントは前日比22円安だったが、その翌日から反発、大幅続伸となり両者共に3日後の20日から22日まで実に3日連続でストップ高の離れ業を演じることとなった。

これらビットコインなどのオルタナティブ資産関連は今後のビットコイン価格に懸かってくるだろうとしたが、ビットコインの約4か月ぶり最高値更新でこれらにも火が付いた格好になったか。これらと似たパターンではコメ価格の急騰に合せて株価が先月の安値から1か月もかからず軽く2倍以上に大化けした東証スタンダード市場の「木徳神糧」なども小泉新農相発言でコメが値下がりに転じる可能性が意識され先週は急反落となっていた。

冒頭のメタプラネットはさすがに3日間も連続でストップ高を演じたとあって週末はザラバで一時ストップ安に、リミックスポイントの方もストップ安と急反落して引けることとなったが、トランプ氏の関税政策の景気への影響や財政懸念等を背景とした金利の上昇など、マクロ環境の先行き不透明感が残るなかこの手の個別物色が特に目立つ展開となった1週間であった。

上記のこれら関連株など当の原資産以上の値上がりとなっており読みが当たった向きはたまらないだろうが、投機色が濃くなってきている場味にはいささか不気味さも禁じ得ない。ビットコインにしてもそもそもの素地に米金利の上昇がありこれを受け先週は国内でも長期金利の上昇が顕著であったわけで、今後もこれらの動向と併せてマーケット全般から目が離せないか。


吸い上がる浮動株

さて、今週アタマに取り上げたメガバンク勢も決算に合せて自社株買いを発表していたが、過日の日経紙では「株数減少時代に日本突入」と題し、資本効率改善手段としての大規模な自社株買いを背景に昨年は上場企業の株式発行額から自社株買い額を引いた値がマイナス12兆円となるなど日本の株式市場で株数が本格的に減る時代に突入している旨の記事があった。

この自社株買いだが、ちなみに先の関税ショックで急落した4月初旬から今月7日までの設定枠は4兆3000億円と前年同期の3倍になっている。これまで過去最大といわれた昨年の自社株買い実績は18.7兆円であったが、今年は新年度から今月第2週までのわずか1か月ちょっとのところで既に約5.2兆円に上るといわれておりこの段階でもう28%近くを達成していることになる。

ところで東証が本日発表した5月第3週の投資部門別売買動向によれば、海外投資家は日本株を6232億円買い越しておりこの買い越しはこれで7週間連続となっている。こうした海外勢の買い越しの背景には、米関税政策等で外部環境が逆風のなかでも活発な企業の自社株買いなど想定以上の株主還元策を出している事などがポジティブ視され日本株にマネーを引き寄せている要因の一つとの指摘もある。

足元ではモラトリアムの90日間が折り返しを迎えるなか経済再生担当大臣が日米関税交渉に向け明日には3回目の訪米が予定されているとかだが、この日米関税交渉の行方がどう決着するのか見えないなか、冒頭の通り決算発表と併せて自社株買いを発表する公表する企業は少なくない事で、海外勢含め投資家がこうした株主還元姿勢を拠り所にするという動きはしばらく続きそうだ。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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