次のイグジット

本日の日経紙金融経済面には、日銀が金融システム安定策の一環として2002年から銀行から買い取ってきた2兆4000億円あまりの株式を、金融不安が後退したとして2016年から続けていた売却を完了した旨の記事が載っていた。当時は中央銀行としては極めて異例の措置といわれたものだったが、そこから20年余りをかけてようやくその役割を終えた形になるか。

さてこの保有株式の売却が完了した事で市場の関心は日銀が保有する簿価で37兆円、3月末時点での時価にして70兆円のETFの取り扱いに向かう。この扱いを巡っては野党の一部からはこれを政府が買い取ったうえで分配金収入を子育て支援の財源として活用する事などを求める案などが浮上しているが、このスキームと同じことを既に当欄では2年前に書いている。

他にも日銀勘定から別の機関等に移管・分離させてその出口を探るというバブル真っただ中の一時期に一部証券会社でも流行った?“飛ばし”のようなスキームも挙げたのを思い出す。また相応のインセンティブ付与を前提に売却制限を付けて個人へ譲渡する案などもあったがいずれにせよ一時期は170年かかるともいわれたこのETF処分、今後どういったペースで処理をしてゆくのかが焦点となる。


猛暑の経済損失

今月のアタマには気候変動から長期化しつつある「夏」で売れ筋の変化から1年を二季として商品構成を考えるアパレル各社の戦略などを書いたが、日曜日の日経紙・科学の扉では「世界で酷暑、損失600兆円」と題し、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書によれば気候変動による世界のインフラの損失額は平均気温が2度上昇した場合に2100年には約600兆円に上ると推計される旨の記事が載っていた。

世界レベルの損失といえばILO(国際労働機関)も暑さによって失われる労働時間が2030年までに全世界で2.2%に達しフルタイムで働く8000万人分の労働力が消失すると分析、その経済損失は2兆4000億ドル(日本円で約380兆円)になるとしている。また日本でいえば医学誌のランセットによれば23年は暑さで日本の労働生産性が低下、労働時間の損失は年間で約22億時間、潜在的な収入損失は年間で約5兆4000億円という。

それ以外でも同紙に出ていたように天候不順からさまざまな果実の収穫が減少、オリーブオイルやチョコレート製品は価格がここ数年で2倍以上に跳ね上がり、漁獲量などを見ても理解できないほど従来のバランスが大きく崩れている。そのほか洪水や干ばつ被害の頻発から一部では火災保険が続々と停止に追い込まれ各所で生活に大きな影響を与えている。

冒頭のIPCCだが、地球の気温上昇を1.5度以内に抑えるためには2035年に2019年比で60%の温暖化ガス削減が必要としている。2050年には実質排出のゼロを実現しなければならないが、足元では第2次トランプ政策の壁が立ちはだかるなど停滞も懸念されるところ。とはいえこの手の取り組みは人々や生態系に関わって来る重要な事だけに流れとしては不可逆的なものになろうが、いずれにせよ各国による実効性のある対策が喫緊の課題といえるか。


選択と集中

今月の日経紙「私の履歴書」は資生堂の前会長が書いているが、この資生堂といえば先週末に同社が日本で代理販売を行っている「ローラ・メルシエ」の販売を、事業の選択と集中を進める戦略の一環で10月末をもって撤退する旨を発表している。同ブランドは下地やベースメイクはじめ多彩なアイテムを揃え、官能的?な香りの一部商品など愛用者も多かった事で残念がる向きも少なくないか。

このローラ・メルシエは資生堂が2016年に買収しているが、同じく買収したブランドではその3年後に米スキンケアブランドの「ドランク・エレファント」も買収している。こちらは環境や肌への負荷が少ない天然由来成分を売りにしていたブランドであったが、このドランク・エレファントもまたローラ・メルシエより一足先の先月末に既に国内販売を終了している。

資生堂といえばもう一つ、買収したローラ・メルシエは5年後に2021年に米投資ファンドに売却しているが、その翌年にはやはり輸入販売を手掛け上記ブランドと共に三越等の大手百貨店で展開していた「ドルチェ&ガッバーナビューティー」も撤退表明している。一部ECなどからこのドルガバビューティーのアウトレット案内が来た事があったが、この辺の事情が背景にあったか。

斯様に人気のあった欧米ブランドが数年で次々に撤退の憂き目に遭っているが、コスメ業界といえば近年は韓国勢の台頭が著しくこの辺も大きく影響しているのかも知れぬ。最後に資生堂といえば余談にはなるが、横浜の資生堂パーラーも今年の8月に閉店してしまう。実に40年の営業に幕を下ろすわけだが、銀座と同じメニューがお安く頼めてかつてよく使っていただけに何とも残念である。


埋もれた傑作

本日の日経紙の「特集」では、大阪中之島美術館で開催されている日本美術の中でも埋もれた傑作に光を当てた「日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ!」から幾つかの作品が挙げられていたが、伊藤若冲や円山応挙の作品と共に工芸品部門での宮川香山の「褐釉蟹貼付台付鉢」や「氷窟鴛鴦花瓶」など眞葛焼を代表する作品が出ており思わず目が留まった。

この宮川香山も若冲と共に昔から私のお気に入りの一つであり、今から10年近く前だったか日本橋で「超絶技巧・世界を驚かせた焼き物」なるタイトルでこの宮川香山展が開催された時には何度も足を運んだものだった。この展では上記の「褐釉蟹貼付台付鉢」も展示されていたほか、個人蔵のものでなかなか普段見ることの出来ない貴重な品もあったのを思い出す。

宮川香山の作品に興味を持つのは、私の大好きなアール・ヌーボー期のエミール・ガレやドーム兄弟の有名な作品で見られるアプリカッション技法を彷彿させるものだからに他ならない。西洋勢のガラスに対し日本勢は陶磁器で同じ造形物を創り出したという感じだが、冒頭の通りまだあまり知られていないというのも軽い驚きだ。今と違い若冲展もひと昔前はゆったりと観られたものだが、いずれ香山も同じような感じになるのかどうか興味深いところでもある。


大手一角の撤退

本日の日経紙一面には「ボージョレ販売撤退」と題しキリンホールディングス傘下のメルシャンが、フランス産ワインの新酒であるボージョレ・ヌーボーの販売から撤退する旨の記事があった。ブームだったころに比べて近年消費が減少しているところへ、円安や輸送コストの高騰が直撃して採算が合わなくなったのが理由というが、大手では既にアサヒビールが昨年に撤退している。

ボージョレ・ヌーボーと言えば長年秋の風物詩として君臨してきたものだが、ワインも近年ではEPA発行等を経て価格や種類の多様化もあってこうした“新酒”だけを売りにしたものに対して相対的に魅力が薄れてきている感は否めない。ちなみにこのボージョレ輸入量のピークは04年であったが、昨年のそれはこのピークから7分の1にまで減少しているのが現状だ。

思えばロシアによるウクライナ侵攻の影響で空輸ルートが制限され、その輸送コスト高騰の影響から一部値段が大きく上がったあたりの客離れが大きかったような気もする。日本は日付の関係もあって世界のどの国よりも早くこれが飲めるという事で、ハロウィーンからクリスマスまでの空白期を埋める商機の位置付けでこの地の利を生かしたイベントも盛んだったがこれももう今は昔になりつつあるか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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