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赤字を買う

本日の株式市場は3日ぶりに反落となったが、先週の新規上場組では公開価格375円に対して約2倍の初値でロケットスタートとなった東証グロース市場のアクセルスペースも週明けのストップ高の地合いを継いで前場に上場後高値を更新した後に反落となっていた。既に5営業日で株価は3倍近くに化けているが、資産運用大手のブラックロックも同社への投資意向を示していることもあり投資家の成長期待が大きい案件となっている。

とはいえ宇宙事業は先のアイスペースの2度にわたる月面着陸失敗も記憶に新しいように技術的な難易度から失敗リスクが付き纏い、同じグロース市場に上場する同社の株価はこのアクセルスペースの上場日には皮肉にも年初来安値を更新し5月高値からは約3分の1水準に下落している。ただそういったなかでもアイスペースは宇宙開発強化のために新たな企業と協業の覚書を締結するなど次のミッションに向けた動きが進んでいる。

宇宙事業の経済規模は80兆円を超えているともいわれているが、日本の宇宙ビジネス市場は2020年時点で約1.2兆円とまだ伸びしろが大きい。とりわけ日本では公的投資が市場の約9割を占めているという試算もあるだけに、公的ではない民間ありきの持続可能な進行がどれだけ拡大するか、今でこそまだ宇宙事業各社は赤字を買ってゆく構図だが今後の展開に期待したい。


建設業界にも再編波

さて、先週末にはまた大型再編の報がゼネコン界であった。売上高ランキングで業界4位に位置する大成建設が、TOBなどを通じて東洋建設の全株式を取得するなどで総額約1600億円を投じて買収を図るとのこと。これが実現した暁には先にインフロニアHDによる三井住友建設の買収額を上回り建設企業同士のM&Aとしては過去最大となり、売上高ランキングでは2位の大林組に次ぐ位置になるか。

建設業界では今年5月にもインフロニアHDが三井住友建設を買収すると表明しているが、このインフロニアHDもかつてこの東洋建設を1株770円でTOBすると試みた経緯がある。これが安過ぎると1株1000円でここへ割って入って来たのが任天堂創業家の資産運用会社YFOであったが、取締役候補のうち過半数をYFOが占めるまで攻めたものの紆余曲折の末志半ばでYFOはTOB提案を取り下げる結末となっていた。

とはいえ今回の再編劇を導いた立役者こそこのYFOともいえ、この構図で思い出したのがかつて石油業界で出光興産と昭和シェルの経営統合の際に泥沼化していた出光経営陣と創業家側の間に入り対立緩和に一役買った村上ファンドの村上氏か。石油業界で同氏は他にも自らが大株主であったコスモエネルギーHDを岩谷産業にバトンタッチし脱炭素に打って出る体制を作り自らのイグジットも十分な利を得ている。

今回の買収劇も1株1750円ということで既にそれに近い現在の東洋建設株価としては派手な鞘寄せこそ起こるべくも無いが、冒頭の通り1株770円でのTOBが出た当時からすれば現在の株価は言わずもがなでYFOのイグジットとしては申し分ない水準だろう。いずれにせよこの買収劇により工事領域で存在したすみ分けもその壁が取り払われることになったが、昨今では建設従事者の不足がいわれるなか他の大手ゼネコンにも動きが出てくるかどうかこの辺が今後注目だ。


FOMO相場

連休明け本日の日経平均は、米と各国の関税協議が進展し米関税政策を巡る不透明感の更なる後退や米早期利下げ観測を背景に5日大幅続伸となり、大引けは前週末比897.69円高の42718.17円とこれで昨年の7月11日に付けた42224.02円を抜いて約1年1か月ぶりに過去最高値を更新してきた。先にTOPIXが史上最高値を更新していたが、日経平均もこれに遅れ史上最高値更新が叶った格好。

個別ではNAV(時価純資産)比で大幅ディスカウントが指摘されていたソフトバンクGが続急騰、IPのサンリオもストップ高とこれら値嵩の寄与も高いが、踏みが原動力になっている部分も否めないか。昨年の過去最大の下げ幅を記録した後の軌道パターンや関税発動時期などからここ数か月目先の下げに賭けた向きも多かっただろうが、信用買い残も整理が進んでおり低信用倍率銘柄では担がれているものも少なくない。

まさにお盆に入る直前での最高値更新劇となったが、早速これを受け大手証券勢の鼻息は荒く揃って今年の高値予想を上方修正してきているあたり一旦は利を入れたくなる衝動にも駆られるものだ。昨年は米CPIが市場予想を下振れしたのを機に過去最大の下落を呼んだが、さて目先のCPIは如何に。その辺は兎も角もいずれにせよ彼方此方インフレの波をひしひしと感じる今日この頃である。


新興不正

本日の日経紙ビジネス面には「オルツ粉飾 経営陣が関与」と題し、東証グロース市場に上場しているAI(人工知能)開発のオルツに関する粉飾疑惑について同社が第三者委員会による調査報告書を公開した旨の記事があった。所謂循環取引を巡っての不正が明るみになったわけだが、これを受けて昨日の同社株はストップ安に沈み今日も大幅続落となり値下がりランキングでは全市場で4位にランクインしている。

オルツといえば昨年10月にAI関連として鳴り物入りで上場したわけだが、上場半年そこそこでこの粉飾疑惑が持ち上がる異例の事態となっていた。斯様に短期で大規模な不正が発覚した例としては、グロース市場創設前の東証マザーズに上場していたエフオーアイが記憶に新しいところ。半導体製造装置を手掛けていた同社もやはり上場して半年そこそこで売上の9割以上の粉飾が発覚し上場廃止に追い込まれている。

今回のこのオルツには大手ベンチャーキャピタルのジャフコグループも出資していたわけだが、こうしたベンチャーキャピタルや監査法人に幹事証券の目を巧みに搔い潜っていたのが凄い。過度な規制強化は有望なスタートアップ企業の成長機会を削いでしまうという意見もあるなかこれを機に上場審査の在り方も今後変わって来るかどうかだが、市場の信頼がこれ以上揺らがぬよう再発防止の重要性がより一層問われるところ。


MBO最多更新か?

週明け本日の日経平均も高値警戒感から値嵩株の売り物が目立ち大幅続落となったが、そんな中で個別では東証プライム市場の太平洋工業が全般の地合いに逆行高となり年初来高値を更新していた。同社は周知の通り先週に創業家が出資する特別目的会社がTOBを実施、MBOで株式を非公開化すると発表しておりそのTOB価格にサヤ寄せする動きから先週末に続いての続急騰となっている。

その買い付け価格は1株2050円と発表されてはいるが、現在同社のBPSは約2900円となっているだけに本日はTOB価格を超えての大引となった。同社はタイヤバルブ関係首位だが、今後のハイブリッドやEVなど電動化の進展でこうした車部品業界は従前とは異なる製品開発の必要に迫られる。株式の非公開化で大胆かつ長期的な投資に取り組める体制が求められていたわけだ。

ところでMBOといえば本日はもう一つ、東証プライム市場の調剤大手の日本調剤も投資ファンドのアドバンテッジパートナーズがTOBなどを通じて買収し非公開化する方向の旨が報じられている。この業界でもまた再編の動きが広がっているが、ともあれ今年の株式非上場化の件数としては折り返しの6月上旬時点で27件となっており今回の件含め同じペースでいくとするなら過去最多の一昨年を更新してくる勢いだ。

こうした動きを鑑み先にみずほフィナンシャルグループも100億円規模のMBOファンドを立ち上げているが、東証の再編の動きや今後の東証改革も控えて上場コストがそのメリットと比較し高いと意識されるような企業勢としてはこれからMBOというものが一つのソリューションとして台頭してくる流れになるか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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