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東証改革のカタリスト

さて、今週の株式市場でひと際目立っていたのは週明けから値を飛ばしていた豊田織機か。週明けのストップ高を交え連日急騰を演じたが、周知のように同社は非公開化の検討に入ったとの報道がありプレミアムを乗せたそのTOB価格へサヤ寄せした格好か。同社はトヨタグループの本家ともいえるが、一昨年だったかアイシンが政策保有株ゼロを目指す旨を打ち出したあたりから潮流の変化が見られそれに続く動きが顕著になってきた。

トヨタグループはその複雑な株式持ち合いと親子関係で知られてきたが、週明けは同グループでは愛知製鋼も急反発し年初来高値を更新、また親子上場解消思惑が他銘柄にも波及し住友電気工業の上場子会社の住友電設株が続急伸し年初来高値を更新、他にも関西電力の持ち分法適用会社のきんでんも急反発し一気に年初来高値を更新してきているなど思惑が絡むところが反応し軒並み値を飛ばしている。

何といってもTOBは豊田織機にみられる通りそのプレミアムを乗せた旨味が大きいだけに、その辺に着目したトレードや金融商品等も近年は見られるようになってきた。2023年には「政策保有解消推進ETF」なるアクティブETFが登場し、2024年にはファイブスター投信投資顧問も親子上場の解消でTOBされる可能性のあるものを狙った「資本効率向上ファンド・TOBハンター」の運用を2月からスタートさせている。

そういった背景の一つにはやはり東証の存在が大きく、親子上場の在り方への関心が高まる一方で現状の取り組みや開示内容を巡って投資家目線とのギャップが生じているとの指摘があるのを鑑み「親子上場等に関する投資家の目線」を今年2月に取りまとめている。斯様に年々その要請も踏み込んだものになってきているが、それら一連の改革は日本企業の特異な商習慣?というかその構造を近年大きく揺るがしてきているのは間違いなく、今後もカタリストとして投資家の関心を惹きつけようか。


値嵩株も射程圏

本日の日経紙一面では「株最低投資額10万円に」と題し、東京証券取引所が若年層も少額から日本株を購入できる環境を整え、国民資産の「貯蓄から投資へ」のシフトを後押しするべく、株式投資に必要な最低投資金額を取引環境整備についての議論で個人投資家が求める水準としての10万円程度に引き下げるよう全上場企業に要請する旨の記事があった。

現行で東証が望ましいとしている最低投資金額は50万円未満だが、2022年にこの単位引き下げを要請して以降各社共に分割の動きが年々急増し昨年は211社にのぼり、当初要請から既に400社以上が株式分割を決議するなどの動きがあった。とはいえ同紙にも出ていたがユニクロを展開するファーストリテイリングなど一昨年だったか1株→3株に分割こそしたものの、それでも最低単元購入には本日段階で460万以上が必要となる。

同社を含め値嵩モノでは他にも筆頭格のキーエンスやディスコなども最低単元で新NISAの年間枠を軽く超えてしまうのが現状で、最低単元買い付け金額が冒頭の10万円を超えてしまう企業は東証全上場企業では6割、成長投資枠で物色し易いプライム市場では8割がこれを上回る。そうなると制度面ではNISA年間投資枠の引き上げか売買単位の変更もしくは分割による最低投資金額の引き下げが俎上に上る。

このうち現状では単元株制度そのものには手を付ける方向になく、冒頭の若年層が少額から日本株を購入できる環境という面を踏まえれば年間投資枠引き上げではなく最低投資金額引き下げが残るという事か。これが叶えば一気にこれまでの5分の1になる計算だが、上記のファーストリテイリングを例に取れば更に46分割以上が必要になる計算で、一昨年のNTTの25分割を超える事例が幾つも出てくることになるか。

東証の要請は解るものの各社が大幅分割に二の足を踏んでいる一つには小口株主の急増による株主総会関連資料その他諸々の事務コストに絡む問題もあるが、この辺は以前から株主総会に絡んで言われている課題であるところのデジタル化など含め再考の余地がある。これまで株式市場では日本の特異性が際立つ部分が多かったものの、東証の本腰を入れた改革で一つ一つが国際標準に近づいてきているだけに今後の要請にも引き続き注目しておきたい。


アクティビストなき後

本日の日経紙投資面では「大日印「改革」進化問われる」と題し、これまでPBR改革などを掲げて自社株買いはじめ意欲的な経営目線で株価を上げ市場を沸かせてきた大日本印刷が、足元で物言う大株主が姿を消した事や自社株買いの減速などもあり、日経平均や競合他社等と比較するにアンダーパフォームするなどここ下落基調が目立っている旨が書かれていた。

同社株といえば物言う株主の米エリオット・インターナショナルやエリオットの関連会社とみられるザ・リバプール・リミテッド・パートナーシップらが大量保有し、当欄でもJPXプライム150指数が算出を開始した頃に「個人的にはPBRが0.6倍台から様々な株主還元を打ち出しPBR1倍に向かう過程で大化けした大日本印刷のような銘柄に大いなる魅力を感じた」とも書いたことがあったが、足元の低迷で同社株は本日の引け段階でPBRも0.7倍台に戻ってきてしまっている。

この手の株主はイグジットしてなんぼの世界で成果が上がれば売り抜けるのは自然な流れだが、米エリオットはそんな中でもオーセンティックな位置づけにあっただけにそれなりの“ロス感”も強かったか。物言う株主の中には取締役まで送り込んでも直後の株価急騰局面で全株を売り抜けたパターンもあり全てが経営にコミットするという期待感は持たぬ方がよさそうだが、構造改革促進という部分では間違いなく刺激となっており今後も彼らの参入で日本企業の株主還元等のスタンスが変わってくるのは間違いなさそうだ。


潮目を変えた同意なき買収

本日の日経平均は円高の進行を受けて3営業日ぶりに反落となっていたが、そんな地合いのなかでも温度センサー最大手の芝浦電子など本日は年初来高値を更新するなど堅調さが目立つ。同社株は2月の3000円水準からほぼ倍近くにもなっているが、同社といえば台湾の電子部品大手の国巨(ヤゲオ)から“同意なき買収提案”を受けていたのを撥ね、ホワイトナイトとして登場したミネベアミツミのTOBを受けると発表している。

同意なき買収といえば芝浦電子と並んで昨年末から報道が多いのがニデックによる牧野フライスへのTOBか。今回は牧野フライス側が一貫してこれに反対を表明し新株予約権等の対抗策を巡っては既に法廷論争にもなっているが、直近ではTOB終了までに投資ファンド等を含む“ホワイトナイト”がこれまた現れるとも報じられておりこちらは株主総会まで縺れそうな気配だ。

上記のニデックは既に工作機械メーカーのTAKISAWAに対して同意なき買収を成功させているが、日経紙が実施した国内主要企業の「社長100人アンケート」では経営者の45.8%が同意なき買収を受ける可能性や対応を取締役会で議論したと回答したほか、自社のM&A戦略で同意なき買収が選択肢に入ると回答した企業も4割近くに上った旨を同紙で見た。

前にも書いたが経産省は23年夏に、企業が買収提案を受けた際、企業価値向上に繋がる真摯な提案を理由なく拒んではならない旨の「企業買収における行動指針」を策定しており買収に関する潮目は確実に変わって来ている。そういった事もありこれら“同意なき買収”は不可逆的なもので今後もこうした流れが続いてゆこうが、経営陣も資本市場との向き合い方を変え以前にも増して緊張感を持った経営が求められようか。


あの時の面々揃い踏み

さてトランプ関税とは別のところで一連の騒動による問題を抱えているフジメディアHDだが、先週には旧村上ファンド代表であった村上世彰氏の長女である野村絢氏が個人で8.96%を保有する筆頭株主に躍り出たことが明らかになっている。そんなわけでこの米トランプ大統領の関税ショックで彼方此方の株価が急落するなかでも同社株はさまざまな思惑を乗せて先週には年初来高値を更新してきている。

同社株については当欄でも年明けに一度触れており、20年前のライブドアを介したニッポン放送株取得によるフジテレビ経営の関与を目論んだ実業家の堀江氏の同社株式取得を書いたが、この直後に同社株取得に動いていたのが運用会社のレオス・キャピタルワークス。そしてこのライブドア事件の騒動の時に堀江氏と共にインサイダー取引で逮捕されたのが村上ファンドの村上氏であったわけだが、20年の時を経てその村上氏の長女が筆頭株主に躍り出てきたあたり因果なものだ。

ところで直近では7.19%を保有する別の物言う大株主の米ダルトン・インベストメンツが同社に取締役候補としてSBIHDの北尾会長兼社長はじめ総勢12名を提案するとの報道があった。ちなみに上記のレオス・キャピタルワークスもSBIHD系だが、この北尾氏といえば上記のライブドア騒動では“ホワイトナイト”として登場し、ライブドアにニッポン放送株を手放させて和解に持ち込ませた人物。こちらもまた因縁を感じるが気が付けばかつての東芝並みにキャストが出揃っている。

株主提案というところでは筆頭株主の野村氏の場合、直近で急速に株式を取得しその保有期間から提案の要件は満たして無くその権利は無いだろうが、これまでも大量取得した上場株式のイグジットにおいて企業再編に絡んできた経緯は少なくない。ダルトンにしても認定放送持ち株会社特有の壁などあるが、いずれにせよ6月の株主総会に向けてそれぞれのキャストがどういった行動に出るのかまだまだ今後も目が離せない銘柄の一つだ。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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