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約20倍増配の怪?

本日の日経平均はザラバで終値ベースの史上最高値を更新する場面があったものの短期的な過熱感を警戒した売り物に押され続落となったが、そんな中でも先週末のストップ高に続き大幅続伸で目を惹いていたのが東証スタンダードのダイドーリミテッド株か。これは周知の通りで、先週に2025年3月期の年間配当を1株あたり100円に積み増すと発表したのを背景としている。

先月末に株主総会2024として当欄でもその行方が注目されると書いていたダイドーリミテッドだが、総じて会社側が提案した議案は可決され株主の提案は相次ぎ否決というパターンが多かった総会のなかでも同社株は大株主のストラテジックキャピタルが提案した取締役選任案の一部が可決されていた。そこから1週間ほどでこれまでの従来予想の20倍近くにもなる大幅増配を突如として打ち出してきたのはサプライズであった。

しかし目下のところ主力のアパレル事業は11期連続の営業赤字を記録し、希望退職を募りながら虎の子?の不動産を順次切り売りしているような不振が続いているような状況下にあってこの度の大幅増配はヤケクソ感さえ漂う。しかも25年3月期だけでなく27年3月期までの3年間は年100円の配当を基本方針とするというからそれらをマトモに好感し年初来高値を買い上がる光景は逆に不気味に映るというものだ。

ただ取締役選任議案を出したストラテジックキャピタル側はこの度の公表に関し提案したものでも事前に同意したものでもないとのコメントを出しており、同日には旧村上ファンド系の南青山不動産が共同保有者と合せて同社株を大量保有している事も報じられている。近年のアクティビスト提案は企業変革を促す原動力ともなるガバナンスや企業改革に踏み込んだものが賛成票を一定数集めてきただけに、総会直後の今回の発表は一寸これらとは異質に映る感は否めないか。


株主総会2024

今週は株主総会がピークを迎える。株主総会といえば今年も今月上旬の日経紙には昨年同様にアクティビストファンドのストラテジックキャピタルによる投資先企業への株主提案や課題が綴られた全面広告が目を惹いた。ちなみに今年も昨年同様にダイドーリミテッドや極東開発工業のほか、新たに東亜道路工業、淀川製鋼所、大阪製鐵、日産車体、京阪神ビルディングの6社が挙げられていた。

特に昨年に続いてのダイドーリミテッドはほぼ一頁を使い詳細な調査分析のうえの反対理由が書いてあったが、総会を前にSC側の株主提案に賛同し電子投票にて会社提案の取締役選任に反対する旨を行った株主に対し会社側から反対は間違いではないのかとの連絡があった旨の公表もあり早くもバチバチな雰囲気だが、両者共に東京地裁に検査役選任の申し立ても為されておりその行方が注目される。

取締役選任といえばグラスルイスやISSといった米議決権行使助言会社が会長の取締役選任議案に反対するように推奨していたトヨタ自動車は既に先週総会を終えているが、はたして豊田会長は再任となったものの、その賛成比率は昨年84.57%だったものが今年のそれは71.93%と約12ポイント強低下、その賛成比率は取締役10人中最も低い結果となった。

こうした議決権行使助言会社やアクティビストの提案等により、近年では選任議案で再任とはなったもののその賛成比率が首の皮一枚といった取締役も多くなってきた。かつてアクティビストといえばハゲタカ呼ばわりされネガティブな印象が世間に蔓延していたものだが、今や徹底したボトムアップリサーチで企業改革やガバナンスに踏み込んだ提案が企業の変革を促す原動力の一つともなってきているだけに機関投資家の賛同も集めはじめており、経営側もより対話の重要性が増してきているといえようか。


消えるか慣習

本日の日経紙投資情報面の一目均衡の頁では「持ち合い株が姿を消す日」と題し、資本効率の改善が求められるなか企業統治や資本効率の足枷とされる持ち合い株が姿を消す日は来るのかとの問題提議があったが、この項目に関しては東証プライム市場上場企業のうち7割がコーポレートガバナンス報告書で削減方針を示すなど近年は企業側の意識も高くなってきている。

そういえば今年届いた株主総会の招集通知では自己株式消却や株式分割に関するお知らせのほか、政策保有株についても言及する企業が何社かあったなと。株主総会といえば本日はトヨタ自動車の株主総会が開催されていたが、既に昨年から系列各社の相互持合いが見直されているほか、大手損保4社も政策株ゼロ方針を打ち出し三菱UFJと三井住友のメガバンク2行も同社の政策保有株売却観測報道がなされている。

こうした実際の動きもあり政策株の削減は年間4兆円程度ありこの10年で持ち合い比率は3.6ポイント低下したというが、適正化水準までこのペースで10年以上かかるといわれていたモノも、上記のメガ企業勢の相互解消などが促進される動きもあって適正化の道のりも半分程度に短縮するとの見方も一部に出ている。

複数の外資系証券試算では全ての政策保有株が自社株取得や消却で解消された場合では日本企業のROEが現状の9%から10%に改善するとの試算もあるが、この辺の自社株取得や消却も現状履行されてるのは未だ半分程度との見方もあるだけに今後も持ち合い解消のその先が注目されようか。


成長双六今は昔

さて、アクティビストとして知られる米投資ファンドのダルトン・インベストメンツが、メディア大手のフジ・メディア・ホールディングスに対し、自身と関連会社が6.55%を保有する同社にMBOを要求する書簡を送ったことが先週明らかにされている。MBOにより会社を非公開化した上でコンテンツビジネスなど放送事業に特化するよう求めるという。

しかしMBOといえばこれまで当欄でもベネッセホールディングスや大きなところでは大正製薬の大型MBOを取り上げてきたが、2023年度の株式取得額は前年度比5倍の1兆4688億円と過去最高になった旨が報じられている。東証の資本コストや株価を意識した経営の要請などを背景に、短期の業績や株価を意識せず中長期の経営改革に取り組みたいというところの非公開化増というところだろうか。

とはいえ全ての企業がMBOでの非公開化により企業価値が劇的に向上するかというとかならずしもそうとは限らないか。過日の日経紙でもアパレルのワールドが取り上げられていたが、同社がMBOを選択したのはちょうどこれが活発化してきた頃の2005年、当時の時価総額は約2444億円だったが、本日の引けでのそれは約683億円と激減している。

業界の誰かが言っていたのを思い出すが、外敵が全く居なくなると動物でも退化してしまう部分があるが企業もまた然り。MBOは小うるさいアクティビスト等の株主から解放され自由な経営が享受出来るが、緊張感の無いぬるま湯ばかりに慣れてしまうと自ら退化してしまう向きも中には出て来ないとは限らない。いずれにせよかつて上場は成長双六のアガリといわれてきたが、こんなところでも隔世の感を禁じ得ない。


自社株とモチベーション

昨日の日経紙一面には政府が2025年にも企業が自社株を使って海外企業を買収できるよう会社法を改正する旨が出ていたが、自社株といえば先週末の日経紙一面にも「自社株、社員に無償譲渡」と題しこれまで役員に限っていた自社株式の無償譲渡の対象を社員にまで拡大する方針とした旨の記事があった。

株式報酬といえばストックオプションが頭に浮かぶが、この度念頭においているのはRSとよばれる譲渡制限付き株式で一定期間後に売却出来るタイプ。この手の動きではANAHDも先に社員持ち株会向けに譲渡制限付き株式を取得する為の特別奨励金支給を発表しているが、現行制度において社員の金銭的負担が実質的に生じないようにするためのもの。

こうした上場企業以外でも未上場の中小企業で、社員に仮想株式を付与して利益を還元するという新たな取り組みも出てきている。仮想株式の株価は業績と連動しており、実際に受け取れる株式数は役職に応じて変化するもの。この仮想株式も現金化出来る時期は付与から数年後に設定されていて現金化する前に退職するとこの株式は消滅してしまう仕組みだ。

いずれも譲渡制限が付くことで社員の離職を防止する効果も得られ当の社員も株主となるために経営や業績を向上する意識を高めやすくなり、また上場企業側も金庫株として保有が増える自社株活用と双方でメリットがある。雇用の流動化が進むにつれて退職者も増加傾向にあるなか、人材確保策として今後もこうした新たな動きが顕著になってくるか。


クラウディア

大学卒業後、大手取引員法人部から大手証券事業法人部まで渡り歩き、その後に投資助言関連会社も設立運営。複数の筋にもネットワークを持ち表も裏も間近に見てきた経験で、証券から商品その他までジャンルを問わない助言業務に携わり今に至る。

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